世界的に金利が大きく上昇してきたこともあり、銀行や証券会社の担当者は海外債券への投資提案を増やしているようです。弊社のお客様からも債券投資について金融機関の担当者から「手数料はかからない」と説明されたがどういうことかと質問を受けるケースがあります。
そこで、今回はコストを開示せずに販売される金融商品についてお伝えします。
多くの金融商品は、きちんとコストが表示されています。たとえば投資信託であれば、販売手数料や運用管理費用(信託報酬)がそれに該当します。ただ、金融商品そのもののなかに、見えないコストが隠れているケースがあります。このコストは、商品販売のルール上、とくに顧客に対して説明する義務はない、というか、説明すべきコストに該当しないことから、営業担当者もあえてここには触れません。私も銀行員として営業現場で10年以上仕事をした経験があるため現場の実情をある程度把握できていますし、コストの表示義務がない金融商品は何も言わずに販売する担当者の気持ちもよく分かります。
たとえば同じ有価証券でも、株式の売買には委託手数料がかかりますが、債券の場合、「手数料はかからない」と、お客さまには説明されていると思います。たしかに、新たに発行される債券(これを新発債といいます)を購入する場合は、買付手数料がかかりませんし、それを償還まで保有して元利金を受け取る場合も、委託手数料の類はかかりません。償還はあくまでも償還であり、有価証券の売却には該当しないからです。一方、すでに債券市場で売買されている債券(これを既発債といいます)を購入、あるいは償還前に債券市場を通じて売却する場合、本来は委託手数料がかかります。
しかしながら、一般的な個人投資家は、債券市場で取引されている債券を買う、もしくは売却するのは非常に困難です。なぜなら、債券市場は機関投資家などプロの投資家が取引の中心であり、取引金額も1億円からなど、非常に高額だからです。そのため、個人投資家が委託手数料を証券会社に支払って、債券市場で既発債を売買するということは、ほぼありえないことです。
では、銀行や証券会社の担当者が提案する既発債への投資はどのような仕組みになっているかというと、証券会社が在庫として保有している債券を個人投資家が購入することになります。また、購入した債券を現金化する際も、債券市場で売却するのではなく、証券会社に買い取ってもらいます。こうすることによって、個人投資家でも既発債を売買できるようになっています。
ここで見えないコストの問題が発生します。債券を購入する際は、証券会社が「いくらで売りますよ」というように売渡価格を提示してきます。また保有している債券を売却する際には、同じように証券会社が「いくらで買い取ります」というように買取価格を提示してきます。この売渡価格と買取価格のあいだに、実は証券会社が受け取る収益が含まれているのです。
たとえば、債券市場において100円で取引されている債券を個人投資家に102円で販売したり、個人投資家から98円で買い取ったりします。すると、それぞれの取引で発生する2円の差額が証券会社の収益になります。このような価格差を「スプレッド」といいますが、その存在を証券会社が個人投資家に伝えることは、まずありません。投資家からすれば、スプレッドも手数料も同じ「コスト」なのですが、厳密にいえば、両者は異なるものなので、「手数料はかかりません」ということになります。
最近はメディアを通じて問題を指摘されることの多い仕組債にも見えないコストが内包されています。仕組債とは、債券の一種ではあるのですが、株価指数先物取引や株価指数オプション取引といったデリバティブを組み合わせた債券です。具体的にどのような債券かというと、たとえば、現在の日経平均株価が3万円として、これが2万4000円まで値下がりしない限り元本割れせず、高い利率が得られるといった仕組みをもっています。仕組債を組成するにあたってかかっている高いコストについては、どのくらいを盛り込んで中抜きしているのかは、外部の人間にはまずわからないようになっています。
金融庁が公表しているレポートの中では仕組債の実質的なコストは年率換算で8~10%程度に達すると指摘されていますが、まさに一般の個人投資家には見えないコストなのです。
他にも「リスク軽減型投資信託」などと称して売られている投資信託や保険商品にも開示されていないコストが含まれています。特定の商品のなかに、こうした見えないコストが含まれて割高になっていることを、金融機関の営業担当者がわざわざ顧客に対して伝えることはありません。顧客の側は、知らず知らずのうちに、表面上明示されている以上のコスト負担を強いられているのです。
世界的にはこうした見えないコストも含めて開示するのが潮流となっているようですし、日本でも全面的なコスト開示が必要だと感じます。全てのコストを開示しない金融機関や担当者を誰が信用するのでしょうか。