個人投資家に社債投資を勧めない理由

日本の大手証券会社も個人投資家に販売していたスイスの金融大手クレディ・スイス・グループが発行した「AT1債」と呼ぶ債券の価値がゼロになりました。

販売した証券会社へ損害賠償を求める集団訴訟の準備が進められるなか、金融庁は販売金融機関に対して詳しい販売状況や顧客対応について報告するよう命令しています。

もし仮に自身の保有する投資商品の価値がゼロになってしまったと考えると暗澹たる気持ちになります。私は個別銘柄への投資を避けて投資信託を利用した資産運用をオススメしていますが、特に社債については個人が買うべき金融商品ではないと考えています。

そこで、今回は聞きなれないAT1債の説明から、社債投資の考え方や個人投資家が社債投資を避けるべき理由について整理していきます。

社債とは、企業が発行する借り入れ証券のことで、一定期間後に元本を返済することが義務付けられます。投資家は、社債を購入することで、発行企業から金利に応じた利息を受け取ることができます。返済期限までに企業が倒産等しなければ、約束された利息が受け取れて、期限に元本の返済が受けられることから比較的安全な投資対象とみられています。

AT1債とは、グローバルに活動する金融機関が発行する証券で、株式と債券の中間的な性質を持ちます。通常の債券よりは弁済順位の低い資産で、発行体が経営破綻すると元本や利息の支払が受けられない可能性があり、株式に近い位置付けとなります。「CoCo債」や「永久劣後債」といった名称で投資家に販売されていることもあります。

最近は、AT1債に限らず、個人向け社債の販売も増えてきていますが、私は個人投資家が買うべき金融商品でないと考えています。多くの個人にとって社債投資を勧めない理由は以下の通りです。

まずは、投資信託での運用と異なり投資先のリスクが集中してしまうからです。安定的な資産運用に取り組むためには分散投資が欠かせません。そして、債券投資は企業にお金を貸すことでもありますが、個人が企業の与信管理をすることは不可能です。仮に信用リスクを判断できたとしても、リスクに見合うリターン(利回り)を享受できない可能性が高い仕組みになっています

数億円単位で投資してもらえる機関投資家向けの社債と異なり、個人向けに社債を発行するためにはコストも余計にかかります。販売する金融機関にとっても相応の手数料が確保できるような条件となっていて、最終的な投資家の受け取れるリターンはどうしても低くなりがちです。

さらに、社債は流動性が低く、換金したくても不利な条件で金融機関に買い取ってもらうしか選択肢がないことが多いことも個人にとっては大きなデメリットです。

このように個人投資家にとって、社債投資はリスクが集中しやすく、投資判断が難しいうえ、リスクとリターンのバランスが釣り合わない投資対象です。

有名な企業の発行する債券と聞くとなんとなく安心して投資をしてしまう人も多いようですが、私は慎重に判断することをオススメしています。