長生きリスクに備える「年金繰り下げ」の注意点とは

人生100年時代といわれています。

医療技術もさらに進歩していくことが予想され、想定より長生きした場合に備えておく必要性が高まっています。

どんなにお金があっても資産を取り崩していく生活には不安を感じる人も多いでしょう。

そういった長生きリスクに備えるには公的年金の繰り下げが有効です。

運用してお金を増やしておくことも大事ですが、それ以上に確実な対策となるのは公的年金の活用だと考えています。

そこで今回は年金繰り下げの考え方を整理していきます。

 

「老後2000万円問題」でも明らかになったように年金制度を正しく理解していない人が非常に多いようです。

公的年金は老後の生活資金のベースです。

確かに人によってはそれだけでは不十分だと感じると思いますが、

メディアが報じるほど日本の年金制度は悪くありません。

制度が破綻することは有り得ないですし、そして、何よりも自身の選択次第で金額を増やしたり、

個人のライフプランに応じてカスタマイズ可能な仕組みになっています。

 

「繰り下げ受給」とは、年金をもらい始める時期を遅らせる代わりに年金額が増える仕組みですが、

選択できる年齢が75歳まで延長される予定です。

受け取り開始を1ヵ月遅らせると、年金額が0.7%増えます。

仮に75歳まで遅らせると年金額は原則である65歳開始に比べて84%増えます。

税金や社会保険料への影響も考慮する必要はありますが、

1.84倍に増えた年金を死ぬまで受け取れるというのは非常に大きなメリットです。

 

ただし、繰り下げ受給には注意点もあります。

 

1つ目は、「損益分岐」の時期です。

受給を遅らせている間に受け取らなかった分を取り戻すには、

増えた年金を何年もらい続ければいいのかを計算すると11年11カ月。

70歳からもらい始めるなら81歳11カ月、75歳からなら86歳11カ月まで生きると元が取れます。

しかし、年金額が増えると税金や社会保険料、医療費の自己負担も増えてしまうため、

実質的には元が取れるまでに15年くらいかかるケースもあります。

 

2つ目は、「加給年金」です。

これは一定の条件を満たす年下の配偶者がいる場合に上乗せされる約39万円の年金です。

加給年金は厚生年金を繰り下げると消えてしまいもらえません。

対策としては、繰り下げる年金を基礎年金部分だけにすれば、加給年金を予定通り受け取ることが可能です。

 

3つ目は、「在職老齢年金」との関係です。

在職老齢年金とは年金をもらいながら働くと就労形態や収入額によっては年金が削減される制度です。

この対象者は繰り下げの効果が薄れてしまいます。

 

4つ目は、「遺族年金」との関係です。

配偶者の死亡後に受け取る遺族年金は65歳時点の年金額を基準に計算するため繰下げで増えた分は反映されません。

また、配偶者の年金額が大きい場合には遺族年金の受給権発生によって自身の繰り下げが無駄になってしまう可能性もあります。

 

5つ目は、受給開始年齢は後から決められることです。

事前に何歳から受け取り開始するか決めないといけないと勘違いしている人もいますが、

その必要はありません。

65歳を過ぎても手続きをせずにいて、例えば68歳になった時点で年金を受け取ろうと考えた場合、

3年分(25.2%)増額された年金額をそれ以降ずっともらうか、

増額はされないけれども3年分を遡って一括でもらうか選択することができます。

 

以上のように年金繰り下げについては注意点も多くありますが、

終身でずっと受け取れる収入源を確保しておくことは安心に繋がります。

十分な不動産収入や配当収入を確保できればそれに越したことはありませんが、

投資にはリスクも伴いますし、資産管理の負担もゼロではありません。

公的年金を中心とする社会保障制度を上手く活用する方が長生きリスクへの備えとしては安心だと考えます。