保有する投資信託を売却して新NISAで買い直すべきか

新NISAについてのメディア報道もかなり増えていることもあり、新制度の活用に関する相談を受けることが多くなってきました。そこで、今回は既に保有する投資信託をどうするべきか整理しておきます。

まず、現在のNISA(一般NISA・つみたてNISA)非課税枠で保有する投資信託については、売却し現金化する必要はありません。新NISAの生涯非課税保有限度額(1800万円)とは別枠で、一般NISAは5年間、つみたてNISAは20年間非課税運用を継続できます。たとえば、一般NISAで2023年に投資した分は最長2027年まで非課税で投資を継続できます。つみたてNISAも同様で2023年に投資した場合は最長2042年まで非課税で投資を続けられます。

そして、非課税期間が経過する頃に売却して新しいNISAで改めて投資するのか、非課税期間終了後に自動的に移管される課税口座(特定口座)でそのまま運用を継続するか判断することになります。

特定口座で保有する投資信託については、今後の投資計画や保有資産額によって対応方法が変わってきます

2024年から始まる新しいNISAでは、最大で年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)まで投資できることになりました。収入の一部から資産形成を進めていて、毎月30万円以上の投資資金が確保できる場合は、新NISAの非課税投資枠をフルに使って資産形成を進めていくことになるため、特定口座で保有する投資信託はそのまま継続保有することになります。

また、収入の中から毎月30万円も投資できない場合でも手元に預貯金など投資可能資金が残っていて追加投資しようと考えている場合には、その資金を新NISAでの投資資金に充当しますので、特定口座で運用している投資信託はそのまま継続保有で問題ありません。

一方で、2024年以降の年間投資可能額が360万円(月額30万円)未満の場合には、特定口座で保有している投資信託を一旦売却して、新NISAで買い直すことを検討する必要があります

非課税で投資できる枠を残したまま課税口座で運用を続けることは合理的ではありません。特定口座で保有する投資信託を売却すると、一旦は税金負担が発生する可能性もありますが、今後の運用リターンが非課税になるメリットの方が確実に大きくなります。

ただし、これからさらに長期で運用を継続できることが前提です。特定口座で保有する資産を数年以内に取り崩したいと考えている場合には無理に売却することは避け、特定口座でそのまま運用を継続しましょう。

NISAで買い直した資産を売却した際に損失が発生すると、買い直さずにそのまま特定口座で保有を続けた場合よりもトータルの税負担が大きくなってしまうからです。

最後に、売却して新NISAで買い直す際にも注意点があります。それは、売却したらすぐに買い直すということです。売却した後に少し下がってから買い直そうと考えて待っているうちに、そのまま上昇が続いてしまい、気付くと買えなくなってしまうということはよくあります。

もう少し下落したら投資しようと考えていたのに、タイミングを見計らっているうちに投資のチャンスを失ってしまった経験はないでしょうか。

基本的には購入タイミングは気にせず淡々と追加投資や運用資産の組み換え(NISA枠での買い直しなど)を進めていくことをオススメしています。

 

NISA改正に向けて2023年にしておくこと

来年から改正される新NISAについてのメディア報道も増え、お客様から質問を受けることも多くなってきました。そこで、NISA改正に向けて2023年中に準備しておくことをまとめておきます。

まず、新NISAを使うために今年何か手続きをしておく必要があるのかについてですが、現行のNISA制度(つみたてNISA・一般NISA)を利用している人がそのまま同じ金融機関で新NISAを利用する予定であれば、特に準備手続きは必要ありません2024年になれば、自動的に今のNISA口座が「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を備えた新NISA口座となります。

現在、特定口座は利用しているもののNISA口座は未開設という人は2023年中にNISA口座を開設すれば2024年の新しいNISA口座が自動的に開設されます。

もし現在利用している金融機関とは別の金融機関で新しいNISAを利用したい場合は、202310月以降に一定の手続きが必要です。新しいNISAは非課税運用期間も恒久化され長期にわたって使うことになりますし、投資可能額も大幅に増額され個人資産全体への影響も大きくなるため、個人のライフスタイルや活用法に相応しい金融機関に変更することも選択肢となります

ちなみに、新NISAでも年ごとに利用する金融機関の変更は可能とされていますが、資産管理が複雑になりますし、見直すのであれば新制度が始まるこのタイミングがオススメです。

 また、現行のNISAで保有している商品を売却しあらかじめ現金化しておく必要もありません。新NISAの生涯非課税保有限度額(1800万円)とは別枠で、一般NISA5年間、つみたてNISA20年間非課税運用を継続できます。たとえば、一般NISA2023年に投資した分は最長2027年まで非課税で投資を継続できます。つみたてNISAも同様で2023年に投資した場合は最長2042年まで非課税で投資を続けられます。ただし、5年や20年が経過したときにそれをロールオーバーして新NISAに非課税のまま移管することはできません。

いずれにしても、2023年までに現行NISAで投資した分は2024年に新NISAが開始されても、引き続き現行NISAの制度として保有を継続できますので、慌てて売却してしまわないように注意してください

現行のNISAで保有する商品は非課税運用期間が終わる頃に売却して新しいNISAで改めて投資するのか、非課税期間終了後に自動的に移管される課税口座(特定口座)でそのまま運用を継続するか判断することになります。

 来年から始まる新しいNISA制度を利用するにあたって、現行のNISAを利用していて同じ金融機関で新NISAを利用予定であれば、2023年中に必要な手続きはありませんが、NISAの活用方法によって10年後や20年後には数百万円単位の違いが生まれてくるため、新しいNISAをどのように使うのかについては早めに検討しておくことをオススメしています

 

 

個人投資家に社債投資を勧めない理由

日本の大手証券会社も個人投資家に販売していたスイスの金融大手クレディ・スイス・グループが発行した「AT1債」と呼ぶ債券の価値がゼロになりました。

販売した証券会社へ損害賠償を求める集団訴訟の準備が進められるなか、金融庁は販売金融機関に対して詳しい販売状況や顧客対応について報告するよう命令しています。

もし仮に自身の保有する投資商品の価値がゼロになってしまったと考えると暗澹たる気持ちになります。私は個別銘柄への投資を避けて投資信託を利用した資産運用をオススメしていますが、特に社債については個人が買うべき金融商品ではないと考えています。

そこで、今回は聞きなれないAT1債の説明から、社債投資の考え方や個人投資家が社債投資を避けるべき理由について整理していきます。

社債とは、企業が発行する借り入れ証券のことで、一定期間後に元本を返済することが義務付けられます。投資家は、社債を購入することで、発行企業から金利に応じた利息を受け取ることができます。返済期限までに企業が倒産等しなければ、約束された利息が受け取れて、期限に元本の返済が受けられることから比較的安全な投資対象とみられています。

AT1債とは、グローバルに活動する金融機関が発行する証券で、株式と債券の中間的な性質を持ちます。通常の債券よりは弁済順位の低い資産で、発行体が経営破綻すると元本や利息の支払が受けられない可能性があり、株式に近い位置付けとなります。「CoCo債」や「永久劣後債」といった名称で投資家に販売されていることもあります。

最近は、AT1債に限らず、個人向け社債の販売も増えてきていますが、私は個人投資家が買うべき金融商品でないと考えています。多くの個人にとって社債投資を勧めない理由は以下の通りです。

まずは、投資信託での運用と異なり投資先のリスクが集中してしまうからです。安定的な資産運用に取り組むためには分散投資が欠かせません。そして、債券投資は企業にお金を貸すことでもありますが、個人が企業の与信管理をすることは不可能です。仮に信用リスクを判断できたとしても、リスクに見合うリターン(利回り)を享受できない可能性が高い仕組みになっています

数億円単位で投資してもらえる機関投資家向けの社債と異なり、個人向けに社債を発行するためにはコストも余計にかかります。販売する金融機関にとっても相応の手数料が確保できるような条件となっていて、最終的な投資家の受け取れるリターンはどうしても低くなりがちです。

さらに、社債は流動性が低く、換金したくても不利な条件で金融機関に買い取ってもらうしか選択肢がないことが多いことも個人にとっては大きなデメリットです。

このように個人投資家にとって、社債投資はリスクが集中しやすく、投資判断が難しいうえ、リスクとリターンのバランスが釣り合わない投資対象です。

有名な企業の発行する債券と聞くとなんとなく安心して投資をしてしまう人も多いようですが、私は慎重に判断することをオススメしています。

相場変動を受け入れ投資を継続することでリターンが得られる理由

2021年末までは世界的に株式市場の上昇が続いていましたが、それ以降は変動を繰り返しながら停滞気味に推移しています。資産運用を始めて間もない方から、「期待していたほど増えないな」とか「このまま続けていて大丈夫なんだろうか」と感じて相談をされるケースが増えています。

 そこで、今回は株式市場が大きく変動しても長期でじっくり運用すれば最終的には儲かる可能性が高い理由や市場変動に負けずに資産運用を続けるポイントをまとめていきます。

 

株式は有価証券と言われるように価値がある資産です。しかも、価値が増加していく仕組みになっています。企業は利益を上げると一部を配当金として株主に支払い、残りは内部留保として株主資本に加えられ、株式の価値が増加していきます。

ただし、特定の企業の株式しか保有していないと、運悪くその会社が倒産してしまうかもしれませんし、継続的に利益を稼いでいけるとは限りません。

そこで、投資信託を使って世界中の企業の株式に幅広く分散して投資しておく必要があるのです。

 世界中の幅広い企業の株式に投資した場合のリターンは長期的にはGDPの成長に連動していきます。世界経済はゆっくり成長しています。世界の人口は増えていますし、発展途上国や新興国の人々の生活も確実に良くなっています。人類にはより良い生活を送りたいという本能的な欲求もあります。世界的にはインフラ投資が起こり、イノベーションも進み新しい商品やサービスが次々と生まれています。

したがって、一時的に経済成長が減速することはあっても成長が止まってしまうということは考えにくいのです。

もちろん短期的には大きな変動がありますが、長い期間投資を継続することによって相応の収益が得られるはずなのです。

様々な過去のデータを検証しても世界の株式に幅広く分散投資を続けていれば、年率57%くらいのリターンを得ることはそれほど難しいことではないことが分かります。

 

しかしながら、投資を継続することは簡単ではありません。

私はこれまで1000人以上の資産運用への取り組み方を見てきましたが、投資経験があまりないうちは不安に感じて投資を止めてしまう人や、逆に投資金額を増やし過ぎてしまいリスクを取り過ぎてしまう人がたくさんいます。

リスクをコントロールしながらきちんと投資を継続できている人はそれほど多くありません。

大きな下落局面が到来しても落ち着いて投資を継続できるようにしておくことが重要です。

私が資産運用をサポートするお客様には想定される最大損失額を必ず伝えて、いくらまでであれば一時的な損失に耐えられるかを確認し投資金額や資産配分を決定しています。

 

最悪の事態を想定できているか、そして当面の生活費など流動性資金を確保できているか、という2点が相場変動に負けずに資産を増やしていくためには重要なポイントになります。

 

 

コストを開示せずに販売される金融商品

世界的に金利が大きく上昇してきたこともあり、銀行や証券会社の担当者は海外債券への投資提案を増やしているようです。弊社のお客様からも債券投資について金融機関の担当者から「手数料はかからない」と説明されたがどういうことかと質問を受けるケースがあります。

そこで、今回はコストを開示せずに販売される金融商品についてお伝えします。

多くの金融商品は、きちんとコストが表示されています。たとえば投資信託であれば、販売手数料や運用管理費用(信託報酬)がそれに該当します。ただ、金融商品そのもののなかに、見えないコストが隠れているケースがあります。このコストは、商品販売のルール上、とくに顧客に対して説明する義務はない、というか、説明すべきコストに該当しないことから、営業担当者もあえてここには触れません。私も銀行員として営業現場で10年以上仕事をした経験があるため現場の実情をある程度把握できていますし、コストの表示義務がない金融商品は何も言わずに販売する担当者の気持ちもよく分かります。

たとえば同じ有価証券でも、株式の売買には委託手数料がかかりますが、債券の場合、「手数料はかからない」と、お客さまには説明されていると思います。たしかに、新たに発行される債券(これを新発債といいます)を購入する場合は、買付手数料がかかりませんし、それを償還まで保有して元利金を受け取る場合も、委託手数料の類はかかりません。償還はあくまでも償還であり、有価証券の売却には該当しないからです。一方、すでに債券市場で売買されている債券(これを既発債といいます)を購入、あるいは償還前に債券市場を通じて売却する場合、本来は委託手数料がかかります。

しかしながら、一般的な個人投資家は、債券市場で取引されている債券を買う、もしくは売却するのは非常に困難です。なぜなら、債券市場は機関投資家などプロの投資家が取引の中心であり、取引金額も1億円からなど、非常に高額だからです。そのため、個人投資家が委託手数料を証券会社に支払って、債券市場で既発債を売買するということは、ほぼありえないことです。

では、銀行や証券会社の担当者が提案する既発債への投資はどのような仕組みになっているかというと、証券会社が在庫として保有している債券を個人投資家が購入することになります。また、購入した債券を現金化する際も、債券市場で売却するのではなく、証券会社に買い取ってもらいます。こうすることによって、個人投資家でも既発債を売買できるようになっています。

ここで見えないコストの問題が発生します。債券を購入する際は、証券会社が「いくらで売りますよ」というように売渡価格を提示してきます。また保有している債券を売却する際には、同じように証券会社が「いくらで買い取ります」というように買取価格を提示してきます。この売渡価格と買取価格のあいだに、実は証券会社が受け取る収益が含まれているのです。

たとえば、債券市場において100円で取引されている債券を個人投資家に102円で販売したり、個人投資家から98円で買い取ったりします。すると、それぞれの取引で発生する2円の差額が証券会社の収益になります。このような価格差を「スプレッド」といいますが、その存在を証券会社が個人投資家に伝えることは、まずありません。投資家からすれば、スプレッドも手数料も同じ「コスト」なのですが、厳密にいえば、両者は異なるものなので、「手数料はかかりません」ということになります。

最近はメディアを通じて問題を指摘されることの多い仕組債にも見えないコストが内包されています。仕組債とは、債券の一種ではあるのですが、株価指数先物取引や株価指数オプション取引といったデリバティブを組み合わせた債券です。具体的にどのような債券かというと、たとえば、現在の日経平均株価が3万円として、これが2万4000円まで値下がりしない限り元本割れせず、高い利率が得られるといった仕組みをもっています。仕組債を組成するにあたってかかっている高いコストについては、どのくらいを盛り込んで中抜きしているのかは、外部の人間にはまずわからないようになっています。

金融庁が公表しているレポートの中では仕組債の実質的なコストは年率換算で810%程度に達すると指摘されていますが、まさに一般の個人投資家には見えないコストなのです。

他にも「リスク軽減型投資信託」などと称して売られている投資信託や保険商品にも開示されていないコストが含まれています。特定の商品のなかに、こうした見えないコストが含まれて割高になっていることを、金融機関の営業担当者がわざわざ顧客に対して伝えることはありません。顧客の側は、知らず知らずのうちに、表面上明示されている以上のコスト負担を強いられているのです。

世界的にはこうした見えないコストも含めて開示するのが潮流となっているようですし、日本でも全面的なコスト開示が必要だと感じます。全てのコストを開示しない金融機関や担当者を誰が信用するのでしょうか。