2024年からの新NISAに向けて今年中にできること

2024年からNISA(少額投資非課税制度)が大きく改正されることになり、お客様からの問い合わせやメディアからの取材も増えています。

予定されているNISA大幅拡充に備えて、今年どのような準備をしておくべきかとの質問を受けることが多く、今回はそれに対する私の考えをまとめておきます。

 

NISAの最大の特徴は、非課税枠が拡大し、非課税期間やNISAの利用期間が無期限化されたことです。

つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を同時に利用することが可能で年間最大で360万円を非課税枠で投資可能です。

ただし、非課税投資枠をフルに何年間も使えるわけではなく「生涯非課税投資枠」という上限が1,800万円(うち成長投資枠部分は最大1,200万円)に設定されます。

つまり、つみたて投資枠の年間120万円を上限いっぱいでずっと続けていったとすると、15年間で1,800万円に到達しますので、それ以降は非課税投資枠が使えなくなるということです。

また、合計360万円の年間上限いっぱいまで毎年投資をした場合も、5年間で1,800万円に到達しますので、それ以降はNISA口座での投資ができなくなります。

 

2024年からの新NISAを踏まえて、2023年のNISA枠はどのように活用するべきでしょうか。

新制度は旧制度とは分離されて、別枠で管理されるため、現行の一般NISAやつみたてNISAの非課税枠で投資したものは、新制度が始まっても当初の予定通りその後5年間(つみたてNISA20年間)、非課税のまま運用可能です。

しかも、その投資額は新NISAの生涯非課税投資枠にも影響しないため、新制度がスタートするのを待つ必要はなく現状のNISA制度をフル活用することをオススメしています。

一般NISA120万円)とつみたてNISA40万円)のどちらを選択するべきかは、利用者の資産状況によって変わってきますが、2022年までと同じ制度を利用しておいた方が管理しやすそうです。

 

また、2024年から非課税投資枠が大きく広がるため、今年は投資金額を減らしておくべきかとか、一部を売却しておくべきかといった質問もあります。

こちらについては、新NISAのために投資余力を残す必要は無いと考えています。

来年株価が下落することが確実であれば、投資資金を残しておいたり、今保有する運用商品を売却しておくべきですが、1年後の株価水準なんて誰にも分かりません。相場の先行きを予想しながらNISAの利用方針を決める必要はありません

NISA制度がどのように変わったとしても個人のライフプランや資金計画に沿って淡々と追加投資を進めていくことが大切です。

したがって、NISA枠だけでなく課税口座でもこれまで通りの追加投資を進めていくことで問題ありません。

 

NISAを最大限有効に活用するためには運用期間が確保できているのであればできるだけ早く運用資産をNISAに集中させることが重要です。

そのため、これまで課税口座で保有している資産を一度売却して新NISAで買い直す方が良いケースもあります。

買い直すべきかどうかは、保有資産の状況とライフプランや今後の投資計画によって変わってきます。

こちらについては、今年の秋頃から検討していくことで問題ありません。

NISAのスタートまであと1年弱。金融機関の事務対応などまだ細かな部分が明確になっていないところもあります。

まずは現状のNISA制度をフル活用しながら新NISAのメリットを最大化するためにも、家族名義のNISA枠の活用などできることに取り組んでおくことが大切です。

 

NISA改正点とメリットを最大化する投資先とは

NISA(少額投資非課税制度)が大きく改正されることになりました。

これまで、現行の一般NISAが2023年で終了して、2024年から2階建ての構造を持つかなり複雑なNISA制度がスタートする予定でしたが、この「2階建てNISA」が取りやめとなり、利用可能金額も仕組みも大きく変わる新しいNISA制度がスタートすることになりました。

これまでのNISA制度で課題とされていた多くの問題が解決されていて、大変素晴らしい制度になっていると感じています。

そこで、今回は新しいNISA制度のポイントと活用方法を整理していきます

まず、一番大きな改正点は、制度が恒久化され非課税運用期間も無期限化されました。これまでのように一般NISAで5年、つみたてNISAで20年、といった制約がありません。いつでも始められるし、運用を続ける限りずっと非課税の恩恵が受けられます。

2つ目は利用可能額が大幅に増額され、年間で最大360万円まで投資が可能となります

生涯で1800万円という投資上限は設定されていますが、あくまでこれは投資元本(簿価)で管理されるため10年・20年といった長期的に運用していれば3000万円~5000万円の運用資産を非課税で保有することも可能であり、多くの人にとってはこれだけで十分な規模となります。

そして、投資の残高は投資元本(簿価)で管理され、売却した空き枠は再利用可能になりました。例えば、200万円で買った投資信託を300万円で換金して引き出した場合、投資可能残高には200万円分の空きが新たにできることになります。

ただし、空き枠は年単位で管理されるため、売却によって発生する空き枠を使って投資できるのは翌年以降となります。そのため、これまで同様に短期的な売買でNISAを使うことはできません。

また、これまでは投資対象や投資方法が限定されていない「一般NISA」と積立投資限定の「つみたてNISA」の選択制でどちらかしか利用できませんでしたが、新しい制度では「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の併用が可能になりました。併用することで年間360万円まで投資できます

改正後NISAの活用のポイントは、運用期間が確保できているのであればできるだけ運用資産をNISAに集めることが重要です。ただし、新制度は旧制度とは分離されて、別枠で管理されるため、現状のNISAで保有する資産は当初の予定期間(一般NISAで5年、つみたてNISAで20年)は非課税のまま運用が継続できます。したがって、新制度がスタートするのを待たずに利用できる人は現状の制度もしっかり利用する方が非課税メリットを活かし効率的に資産運用できます。

そして、今後さらに重要性が増すのは家族名義のNISA枠の活用です。

配偶者だけでなく親や子供名義など、家族みんなの非課税枠を活用することも重要です(ただし、未成年者は新しい制度を利用できません)。

成長投資枠とつみたて投資枠が分かれていますが、長期的なリターンを追求するのでれば、成長投資枠もつみたて投資枠と同じように使うことがオススメです。

メディアや金融関係者はそれぞれの投資枠の利用法や使い分けをアピールしていくことが予想されますが、投資先はどちらの枠であっても、広く分散投資されていて、手数料が安い商品が良いということには変わりません

売却分の空き枠を再利用できると言っても、投資元本分だけであり、売却した金額をそのまま再利用できるわけではないため、できる限り売却せず長期間保有を続けられる商品を最初から選択しておくことが最善の活用法になります。具体的には、世界の株式に投資するインデックス・ファンドで手数料の安いものに集中させるというのが最も効率的にNISA制度を利用するための投資先になるでしょう

改正後のNISAは使い勝手が向上し、金額的にも大きくなり、効率的に使えるかどうかで数百万円単位の違いが生まれます。現状の制度も2023年までは活用し新制度のスタートを待つ必要はありませんが、2024年から始まる新制度の利用方針については、保有資産の状況、今後の投資可能金額、運用可能期間など個人のライフプランと資金計画に合わせて早めに利用方針を検討しておく必要がありそうです。

 

NISA・ジュニアNISAでのロールオーバー手続き

2018年にNISA口座で投資した商品を保有している人には取引金融機関からロールオーバー手続きの案内が届いています。

一般NISA(非課税投資限度額:年間120万円)やジュニアNISA(非課税投資限度額:年間80万円)を利用していると、非課税期間が終了する年末に毎年手続きが必要なため、今回はロールオーバー手続きについて整理していきます。

なお、「つみたてNISA(非課税投資限度額:年間40万円)」を利用している場合は20年間非課税運用が可能な仕組みになっていてロールオーバー手続きは必要ありません。

一般NISAとジュニアNISAはともに非課税期間が5年なので、非課税期間を延長し、非課税口座で保有し続けるためには、翌年の一般NISA(またはジュニアNISA)に商品を移し替える「ロールオーバー」の手続きを行う必要があります。

この手続きを忘れてしまうと、自動的に課税口座(特定口座)へ移されてしまいます。

非課税運用の期限が到来しても勝手に売却されたり運用が終了することはありませんが、節税メリットを受けられなくなります。

ロールオーバーが可能な金額に上限はなく、非課税期間終了時に運用資産の評価額が120万円(ジュニアNISAの場合80万円)を超えていても全額ロールオーバーできます。これは非課税投資枠を増やすことができるため非常に大きなメリットになります。

一方で、ロールオーバーする際の注意点もあります。

翌年の非課税投資枠を利用するので、新たな資金で投資できる金額は少なくなります。120万円以上になっている場合にはNISAでの新規投資はできません。

また、ロールオーバー手続きには期限があります。金融機関によっては12月上旬に期限を設定しているところもあります。

(SBI証券は12月8日、楽天証券は12月30日)

ジュニアNISAでのロールオーバー手続きには申込書類の“郵送”提出が必要な金融機関もあるので注意が必要です。

(楽天証券のジュニアNISAロールオーバー申込書は12月16日までに投函が必要)

では、ロールオーバーするべきかどうかどのように判断したらよいのでしょうか。

ポイントはいくつかありますが、まずは保有している銘柄(商品)の継続保有意向です。引き続き保有しておきたいと思える銘柄であれば、ロールオーバーします。

特に、2018年に投資した商品の評価額は大きくプラスになっていることが多いため、今回は多くのケースでロールオーバーした方が良いでしょう。

商品の見直し余地が多少はあったとしても、現在の評価額が120万円超となっているのであれば非課税枠を拡大できるのでロールオーバーすることをお勧めしています。

一方で、利用者によっては「一般NISA(非課税投資上限:年間120万円)」ではなく、2018年から開始された「つみたてNISA(非課税投資上限:年間40万円)」に切り替えた方が良いケースもあります。非課税運用期間は20年と長く、仕組みがシンプルで使いやすい制度です。

2022年まで「一般NISA」を利用し、2023年から「つみたてNISA」に変更したいという場合には、「区分変更」手続きを行いましょう。

最後に、一般NISAについては2024年から2階建ての新NISAに切り替わる予定でしたが、金融庁が2022年8月に取りまとめた税制改正要望項目では見直しが提案されています。12月に発表される税制改正大綱と2023年の法改正を経て最終的にどのような形になるかは未定ですが、一般NISAは大きく変わる可能性があり、今後も注目しておく必要があります。

歴史的な円安局面での運用見直しのポイント

ドル円相場は32年ぶりに一時151円台まで上昇するなど歴史的な円安が進んでいます。世界的にインフレも進む中で米国長期金利も大幅に上昇し、株式市場も変動が大きな展開が続いています。

市場環境が大きく変化してくると運用方針を見直した方がいいのではと相談を受けるケースが増えています。

そこで、今回は市場環境の変化に対する運用見直しの考え方を整理していきます。

急速な円安進行を受けて金融機関の営業マンは外貨預金や外貨建て保険を熱心に売り込んでいるようですが、市場環境の変化によって利用する金融商品や投資方針を変える必要はありません。今後も円安が進みそうだから外貨投資をしようという短期的な視点での取引はギャンブルと一緒です。たとえ、市場環境が大きく変わったとしても、資産全体のバランスを考慮して長期視点で調整をしていくしかありません

円預金に資産が偏っているのであれば、時間分散しながら国際分散投資をさらに進めていく必要があります。どのような市場環境であっても、個人が取り組む資産運用の原理原則は変わらないからです。

資産運用の見直しを行うタイミングは、市場環境の変化に応じて行うよりも、保有資産額やライフプランの変化に応じて、修正していくのが理想です。

ただ、多くの人は定期的な修正ができずに、市場環境が変化したときに見直しの必要性に気付くようです。

現在のように円安が大きく進行し、インフレリスクが高まっている環境で、チェックしておくべきポイントは、個人資産全体におけるリスク資産の割合と海外資産の割合です。

5年以上使う見込みのない円資金が多く残っていて、保有するリスク資産の比率が低いのであれば、追加投資のペースを引き上げることも選択肢になります。

為替相場の影響を受ける海外資産の比率が高くなっているのであれば、比率を引き下げた方が良いケースもあるでしょう。外貨建て保険などいつか解約しようと考えていたものは解約するチャンスかもしれません。

追加投資を進める場合であっても、現在の150円近い為替相場では為替ヘッジ付き商品を選択するなど為替リスクをコントロールしておく意義は高まっています。

市場環境が大きく変化してくると不安を感じたり、運用見直しの必要性に気付く人も多くなりますが、慌てて何かを大きく変える必要はありません。どのような環境であっても、個人の家計キャッシュフローやライフプラン、運用予定期間を考慮して長期的な視点で資産運用に取り組むことが重要です。さらに、定期的な調整をしながら取り組むことができると理想的な資産運用が実現できます。

資産運用の王道『コア・サテライト戦略』とは

 

日本で投資と言えば投機的な取引をイメージされる方がまだまだ多く、個人でも取り組みやすく王道と言われる資産運用法が知られていません。

そこで今回は資産運用の王道と言われる『コア・サテライト戦略』について説明していきます。

運用資産の大半を占め中核となる「コア」部分は伝統的資産と言われる株式と債券でポートフォリオを構成し、インデックス・ファンドやETFなどのパッシブ運用により安定的な成長を目指します。一方で、運用資産の一部「サテライト」部分では積極的に利益を狙って投資対象を広げていく運用戦略のことをいいます。

機関投資家と呼ばれる多額の資金を運用するプロの多くが採用している方法です。

そもそも、資産運用はリスクを抑え効率性を追求して合理的にやろうとすればするほど、退屈でつまらないものになります。なぜなら、資産運用の基本は、「十分に分散された、低コストのポートフォリオ(運用資産の組み合わせ)に、時間分散を計りながら、長期投資をする」ことだからです。

特定の資産に偏らないように国内外の株式と債券に幅広く分散させて、低コスト商品を使って、タイミングも分散しながら、じっくり長期にわたって投資するということです。もう少し簡単にいうと、「投資対象を幅広く分散して長期で続けるだけ」です。

値動きが大きくて上昇しそうな個別株式を選別し、タイミングを計って売ったり買ったりするといった、ゲームのようなスリリングな取引は一切必要ありません。経済ニュースから市場動向を予想して、値上がりが期待できそうな通貨や成長しそうな国を探す必要もありません。

こうした一見面白みに欠けるシンプルな資産運用でも、長期で継続すれば相応のリターンは稼げるはずです。そして、これを実践していると、損する可能性も極めて低くなります。実際に様々なデータが国際分散投資による長期運用の有効性、確実性を証明しています。

そして、投資のプロである機関投資家の運用資産の中心となる「コア」部分もこういった王道と言われるシンプルな投資により構成されているのです。

海外では個人投資家もアドバイザーのサポートを受けながら当然のように、この王道スタイルで運用に取り組んでいます。

しかし、日本でこういった世界標準の資産運用に取り組めている人は少数派です。

「コア」となるはずの先進国の株式や債券を中心としたポートフォリオではなく、本来は「サテライト」に位置付けられるような資産ばかり保有しています。

具体的には、流行りのテーマに沿った投資信託や仕組債などデリバティブ(金融派生)商品、豪ドルなど資源国通貨やブラジル・トルコ・南アフリカなどの新興国通貨などです。

こうなってしまっている理由は、金融機関が手数料を稼ぎやすくて、売りやすい商品ばかり提案して販売しているからだと感じています。

趣味で投資を楽しみたいという一部の人を除くと、多くの人にとって人生における資産運用の優先順位はそれほど高くないはずです。誰もが資産運用に取り組むことは必要な時代ですが、興味がなければ、必要以上に時間や労力を費やす必要はなく、コアとなる資産のみを保有することでも十分だと考えます。

「コア」と「サテライト」の最適な比率は各人の資産規模によっても変わってきますが、一般的には「コア」に7~8割、「サテライト」に2~3割という程度の配分がよいでしょう。

まずは「コア」となる資産を作り、興味関心があれば「サテライト」部分で更なる収益性アップや楽しみを求めてみてはいかがでしょうか。

 

「投資」という言葉の4つの意味

 

最近も芸能人の投資詐欺事件が報道されましたが、投資に関するトラブルはなくなりません。

その多くはそもそも投資でもなんでもなく単なる詐欺事件であることがほとんどです。こういう事件が起きるたびに、「投資は胡散臭い」とか「投資は危険である」といった誤った情報が流布されてしまうことが非常に残念でなりません。

そこで、今回は「投資」という言葉の意味について整理していきます。

日本で投資に対するイメージが悪いのは「投資(トーシ)」という言葉に誤解があるからだと感じています。「トーシ」という言葉は大きく分けると「投機」、「短期投資」、「長期投資」、「資産運用」の4つの意味で使われていて、多くの場合、投資は投機と誤解されています。

「投機」とは、結果に法則性がなく偶然性に賭けている取引であり結果をコントロールする術がありません。サイコロの目を当てたり、コインの裏表を当てるようなゲームが典型的です。

株式や債券などの証券投資の結果にはある程度の法則性があり、結果をコントロールする方法があります。何よりも経済活動の一端を担う取引であり、実物経済の裏付けがある点が投機とは大きな違いです。

投資にも「短期投資」と「長期投資」があります。

株式の短期投資は対象が「価格」です。株価の変動に賭け、売り買いによってリターンを追求します。一方で長期投資は対象が「企業価値」です。

生み出した利益により企業が成長し価値が増大するのには時間がかかります。したがって、必然的に長期投資になります。

また、「資産運用」と「投資」も大きな違いがあると私は考えていますが、一般的には明確な区別なく使われていることが多いようです。

資産運用は文字通り「資産」全体を「運んで用いる」ということです。保有する資産全体の価値に着目する必要があります。保有する資産の一部で投資に取り組み価格が2倍になったとしても、その資産が個人資産全体の数パーセントだったとすると、人生における資産運用としては全く意味がありません。

資産全体を有効に活用し、できる限り安定的に増やしていこうというのが資産運用であり、私は人生において必要不可欠なものだと考えています。

以上のように、投機、短期投資、長期投資、資産運用はそれぞれ異なる意味を持っています。

実際に英語では明確に言葉が違っています。投機は「スペキュレーション(speculation)」、短期投資は「トレーディング(trading)」、長期投資は「インベストメント(investment)」、資産運用は「アセットマネジメント(asset management)」です。

日本語ではこれらをすべて「トーシ」という言葉でまとめてしまっていて、これが投資に対して得体のしれない怖いものといったイメージを作っているように思います。

私は資産運用アドバイザーとして、個人資産全体のマネジメントをサポートすることが役割だと考えています。

保有資産の中でどのくらいを投資に回すべきか、最適な投資スタイル、投資プランを個人ごとに策定し提案します。投資銘柄やタイミングの推奨が主な仕事ではありません。

個人によってベストな投資プランは変わってきますが、個人の取り組む投資方法には王道と言われる投資スタイルがあります。それは運用資産の大半を占め中核となる「コア」部分で投資信託を使った長期投資に取り組み、興味や関心があれば「サテライト」部分で投機や短期投資に取り組み更なる収益性アップや楽しみを追求する方法です。

こうした方法でリスクをコントロールしながら長期投資に取り組めば、資産を増やしていくことはそれほど難しいことではありません。

まずは多くの人が王道と言われる投資法について知り、取り組む人が増えると、投資に対するイメージも改善していくのではないでしょうか。

 

 

最適な資産配分の考え方

資産運用を始めるときに最初に何を考えるべきでしょうか。

投資対象(何に投資するか)やタイミング(いつ投資するか)を気にされる人が非常に多いですが、この2つよりも重要なのが資産配分です。

金融のプロの間では半ば常識になっていますが、長期的な投資成果は資産配分でほとんど決まってしまいます。もっと簡単にいうと、運用資金を資産の種類(国内外の株式・債券など)ごとにどれぐらいの割合で投資するのかによって将来のリターンがほぼ決まってしまうということです。

公的年金の積立金運用では現在4資産(国内債券・国内株式・海外債券・海外株式)へ25%ずつの均等配分が基本構成割合となっています。

私も講演活動や出版した書籍などで4資産への分散投資成果を示しながら資産運用の考え方を伝えることが多くあります。4資産分散というのは、いかなる経済環境であっても、どのような人にとっても長期の分散投資を理解し実践しやすい無難な方法であり、失敗する可能性が極めて低く初心者でも安心して運用を続けられる方法だからです。

しかしながら、この資産配分がベストということではありません。むしろ、誰にとってもベストとは言えず、4資産均等配分では効率的な資産運用にはならないと考えています。

最適な資産配分は、保有資産や家計収支、リスク許容度などによって変わってきますし、マクロ経済環境を考慮した調整も必要です。

現在は世界的に金利上昇局面にあり、海外の債券クラスへ25%配分することは望ましくありません。国内の債券クラスもリターンが期待できない状況にあり、国内債券クラスに資産を配分するくらいであれば、円預金としていつでも使える資金を保有しておくことが有効です。

株式クラスのみに投資することは、短期的な価格変動が大きくなりますが、それを理解し

資金的にも精神的にもリスクを許容できる人であれば、株式中心に配分して運用することが効率的です。

国内と海外の比率については、世界の株式市場における国内株式市場のシェアは5~6%程度であることを考慮すると海外株式中心に資産を配分するのが妥当だと私は考えています。ただし、海外株式中心の資産運用に取り組むと為替相場の影響が大きくなりすぎてしまうため、運用資産の規模や運用可能期間によっては為替ヘッジ付き商品を組み合わせるなど為替リスクをコントロールすることも必要です。

資産運用において資産配分が重要なことは間違いありませんが、最適な資産配分に絶対的な正解はありません。場合によっては、分かりやすさや管理しやすさ、納得度合いを優先して決めても良いと思います。

資産運用における為替ヘッジの考え方

国際分散投資により長期的なリターンを期待して資産運用に取り組むと海外資産を中心に投資を行うことになり、為替相場の動向によって運用結果が大きく変わってしまいます。

そのため、為替相場の影響を抑えて安定的な資産運用を実現するために為替ヘッジ付きの投資信託を利用することもありますが、今年に入りその為替ヘッジコストが上昇しています。

そこで、今回は資産運用における為替ヘッジの考え方を改めて確認していきます。

為替ヘッジ付きとは、将来為替相場がいくらになっていても「1ドル=〇〇円」で交換しますという為替予約の仕組みを利用して、為替相場が大きく変動してもその影響を受けないようにしています。

円高によって評価額が下落するのを避けられますが、円安が進んでも、本来海外資産に投資することで得られるメリットは受けられません。

そして、為替ヘッジ付きの投資信託はリスクを抑えられる代わりにヘッジコストがかかります。

ヘッジコストとは、コストといっても金融機関が徴収する手数料ではありません。

外貨の短期金利と円の短期金利の差がベースとなっていて、それに各通貨の需給などの状況により発生する金利(ベーシス・スワップ・スプレッド)が上乗せされます。

昨年末に0.3%前後だった米ドルのヘッジコストは足元で1.7%台となっていて、今年に入ってから大きく上昇しています。

今回のヘッジコスト上昇の背景には、日米の金利差の拡大に加えて、世界の金融市場で米ドルの調達コストが上昇していることがあり、今後も日米の短期金利差の拡大に伴い、ヘッジコストが一段と上昇する可能性があります。

資産運用においてコストを抑えておくことは非常に重要ですが、為替ヘッジのためのコストは負担するだけのメリットがあります。

ただし、相応のコストを負担して為替リスクをヘッジしておくべきかどうかは、個人の年齢や投資金額、運用方法によっても変わってきます。

シニア世代が退職金などまとまった額を運用する場合には、一定程度為替ヘッジ付きの商品を利用するのが妥当でしょう。ひとたび円高が進んだら円安に戻るのを待つ時間的な余裕がないかもしれません。想定外の資金ニーズが発生する可能性もあります。

一方で、これから資産を形成していこうと考える若年層や相応の収入が期待できて投資余力の大きい投資家は為替ヘッジの必要性は低いでしょう。

積立投資であれば円高進行時には多めの口数を買えて長期的なリターンを高めることにもつながります。

他にも、十分な円預金を確保していて個人資産の中のごく一部の資金で投資していこうと考えている場合も為替ヘッジ付きの商品を使う必要性は低くなります。

最終的にはその時点の為替水準によっても為替ヘッジの意義は大きく変わりますが、リスクを抑えた安定的な資産運用を目指すのであれば、為替変動の影響を抑えておくことも有効な戦略になります。

リスクを抑えたいからといって全て為替ヘッジ付きの商品で運用するのは適切ではありませんが、個人金融資産全体の中で為替相場の影響を受ける資産の割合を意識的にチェックしバランスが偏らないように調整しておくことが大切です。

 

投資信託の基準価額変動要因について

 

ドル円相場は一時130円台まで上昇するなど約20年ぶりの円安水準で推移しています。

リスクを抑えながら国際分散投資に取り組む個人投資家にとって投資信託は欠かせない金融商品となっていて、ドル円相場の上昇により多くの投資信託が上昇しています。

そこで、今回は投資信託の値段である「基準価額」の変動要因について整理していきます。

 

基準価額とは、投資信託が今いくらなのかということを示す数字で、株式でいうところの「株価」のようなものです。つまり、投資信託の値段であり、今いくらで購入できるのか、あるいは解約するといくらになるのかを判断する基準になります。

ただし、株価と決定的に異なる点があります。それは、株価がマーケットの動向によって時々刻々と動いていくものであるのに対し、投資信託の基準価額はそこまでリアルには変動しません。日本の投資信託の場合は毎日1回、市場が終了した、午後3時以降に基準価額が計算され公表されます。

また、「株価」は、株式市場の取引に参加している市場参加者の需給バランスによって決まります。つまり、株式の買い手が多ければ値上がりし、逆に売り手が多ければ値下がりします。これに対して、投資信託の「基準価額」は、需給バランスで決まるわけではありません。

「人気があるから〇〇ファンドは高くなっている」と勘違いされる方も多いのですが、投資信託の場合は需給(=人気)によって基準価額が動くわけではないため注意が必要です。

 

基準価額は、その投資信託が投資している株式や債券などの時価総額に、利息や配当金などの収入を加え、そこから運用コストを差し引いた金額を総口数で割って算出されます。

 

また、「基準価額が30,000円の投資信託Aよりも15,000円の投資信託Bの方が割安でお買い得である」と考える人もいますが、これもよくある勘違いです。

投資信託は運用開始する前日の価格を10,000円として基準価額を設定しているため、同じような投資信託であっても運用開始したタイミングによって基準価額の水準は大きく変わってきます。

一般的な買い物と違って投資信託の値段は商品選びの際に参考にならないし、参考にしてはいけないということです。

 

つづいて、基準価額の変動要因について確認します。

投資信託が投資対象としている株式や債券の評価額が上がれば純資産総額が増加して基準価額の上昇要因になります。反対に、評価額が下がれば基準価額の下落要因になります。

例えば、国内株式に投資する投資信託の場合、投資している企業の株価変動と投資信託の基準価額の変動はほぼ一致します。

一方で、海外資産に投資するファンドの場合、投資対象資産の価格変動に為替変動の影響が加わります。

株価がそんなに動いていなくても、ドル円相場の変動によって投資信託の基準価額が大きく上昇することがあります。

米国株式の場合「NYダウ」や「S&P500」という株価指数の変動がニュースで報じられます。その際には「NYダウが〇〇ドル上昇した」などと、必ず現地通貨建てで報道されます。

保有する投資信託の評価額が上昇している場合でも、それが株価上昇によるものなのか、為替相場の変動によるものなのかをしっかり区別して認識しておくことが重要です。

 

最近の基準価額の上昇要因は、投資対象株式の上昇ではなく為替変動による部分が大きくなっています。したがって、為替相場の円安トレンドが変わってしまうと保有投信の損益状況も大きく変わってしまうことは覚悟しておいた方がよさそうです。