誤解だらけの公的年金

金融庁の報告書発表から1ヶ月以上経ちますが、いまだに「老後2000万円問題」について多くの報道を目にします。
証券口座の開設者数も増えているようですし、
多くの人が主体的に資産形成に取り組むようになっているのは良い事だと思います。
しかしながら、先日の参議院選挙での各党の公約を見ていても、
年金制度について正しく理解できていないものが多くあります。
そこで、今回は公的年金についてよくある誤解を中心に説明します。

<公的年金とは>
そもそも公的年金とは、貯蓄制度ではなく保険制度です
日本経済新聞社編集委員の田村正之さんは「年金制度は人生のリスクに備えるお得な総合保険である」
説明していますが、まさにその通りだと思います。

年齢を重ねて就労による収入が獲得できなくなった人や突然障害を負ってしまったり、
一家の大黒柱が亡くなってしまった人にお金を支給するためのセーフティネットです。
相互扶助のための保険制度だからこそ国民年金の保険料納付は20歳以上の全国民が負担する義務になっていますし、
保険給付には税金も投入されています。
国民年金の上乗せである厚生年金では、企業が従業員の保険料の半分を負担しており、
日本社会に属する個人と企業で社会全体の保障制度を支えているのです。

<年金制度は維持可能なのか>
現在の年金制度は、自分が積み立てたお金を将来の自分がもらう「積立方式」ではなく、
今の現役世代が払った保険料が受給世代の年金として支給される「仕送り方式(正確には賦課方式と言います)」です。
確かに「仕送り方式」では少子高齢化によりいずれは制度が破綻するように思えますが、そんなことは起きません。
人間はいつか亡くなるため、受給世代も永遠に増え続けるわけではありませんし、
人口構成の変化は確実に予測可能なことなので、税金で負担する割合を引き上げたり、
物価上昇率に比べて給付額を抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みを導入することで対策済みです。
さらに、150兆円という莫大な積立金もあります。
これはこれまで集めた保険料を将来の年金支払いに備えて積み立て、運用してきた資金であり、
年金支払いの財源として確保されています。

<現役世代は払い損なのか>
社会のセーフティネットなので個人の損得で考えるのは正しくありませんが、
あえて損得で考えたとしても公的年金はかなりお得な仕組みです。

最大のメリットは亡くなるまで給付を受けられる“終身”年金だということです。
どんなに長生きしても一定の給付が受けられます。
しかも、物価が上昇すればある程度受給額も増える仕組みになっています。
これは民間の金融商品では到底実現できない機能です。

今後の経済成長率などによっても変わりますが、
60歳時点の平均余命である83~85歳まで生きると想定すると、
現在の40歳では支払った保険料の2.4倍、50歳では2.8倍、60歳では3.2倍の金額がもらえます。
税金が投入されていることもあり、約10年も受給すれば個人で負担した保険料を上回る給付が受けられるような設計になっています。
しかも、平均余命より長生きすればさらに長生き保険としてのメリットが受けられます。

<まとめ>
今回は公的年金制度についてのよくある誤解について説明しました。
年金制度について正しく理解することで、
年金不安を煽って誤った情報を提供しながら金融商品や不動産を売り込む営業マンに惑わされることがなくなります。
そして、さらに大切なことは、公的年金の受給額は個人の選択次第で大きく変わるということです。
各自が年金を増やすためにできる対策をとっておくことが重要になります。