株価急落局面における資産運用のポイント

株式市場の下落が続いています。8月2日は前日比2,216円も下落し、メディアは「歴代2番目の下落幅」とか「ブラックマンデーに次ぐ下げ幅」と大騒ぎです。一部のお客様からも問い合わせの連絡を頂戴していますので、今回は株価急落時の対応についてまとめたいと思います。

まず、メディアの報道に煽られず冷静に対応することが重要です。下落幅(下落額)でみると歴代2番目かもしれませんが、下落率は5.8%にすぎず歴代29位にとどまります。下落レベルは金額ではなく、比率(%)で測るべきです。下落の金額が大きくなるのは、これまで上昇してきたからで、同じ比率(%)でも水準が高くなれば、数字での変動幅が大きくなるのは当然です。

たしかに、直近の1ヶ月で2割近い下落ですから一応「大幅下落」と言っても良いとは思います。ただし、これも1年に1回くらいは起こるものだと覚悟しておくべきでしょう。

今回も米国経済に景気減速を示すデータの発表が続き、ハイテク株主導の高値圏から調整が発生したタイミングに日銀の利上げで国内経済の先行きにも不安が生じて市場が反応していると言われています。さらに、160円を超える過度な円安進行が修正されていることも株式市場に大きな影響を与えています。

国内株式市場は6ヵ月前と同じ株価水準に戻っただけですし、これまでの上昇ペースが速かったことによる、調整局面だと私は判断しています。

今後も米国大統領選挙の結果や日米金融政策の見直しによって大きな変動が続くかもしれませんが、相場の先行きを予想して運用方針を変える必要はありません。

短期的なリターンを追求して売買を繰り返すような投資スタイルであれば、色々と対応しなくてはいけない局面だと思いますが、分散投資を徹底しながらリスク管理をしっかり行い資産価値の上昇から長期的なリターンを追求していくスタイルであれば、やることは変わりません。

最長で5年くらいは相場が回復せずマイナスが続いても問題ないように投資額を増やし過ぎず手元資金を確保できていれば、当初の投資方針に沿って運用を継続するだけです。

こういった株価急落局面で絶対にやってはいけないことは、評価額の下落に不安を感じて売却してしまうことです。

これまで保有資産の評価額がどんどん上昇して利益が出ていたのに、下落して利益が少なくなってしまうと売却して一旦利益を確保しておきたいと考える人がいますし、その気持ちもよく分かります。他にも、「当面回復は期待できないし、まだまだ下がるだろうから一旦売却しておいて、安くなったところで買い戻そう」と考える人もいるかもしれませんが、それもお勧めできません。多くの人は買い戻すタイミングを逃してしまい、市場回復局面でのリターンを得られないだけでなく、何もせずに保有し続けた場合よりも少ないリターンしか得られません。

確実にリターンを獲得するためには『市場に居続けること』が大切です。

そして、積立投資により運用資産の積み上げに取り組んでいる場合には積立を停止してしまうことも絶対に避けておきたいことです。下落局面で買い増しを続けていくことが大きなリターンにつながります。

リスクをコントロールしながら長期的に成長が期待できる資産へ投資しているのであれば、何も変える必要はないということです。

短期的には景気が後退しても世界全体でみれば経済成長は続き、どのような金融ショックが起きても株価はいずれ元の水準を回復しています。

売却はライフプランと資金計画に基づいて計画的に行いましょう。決して、感情的に進めるものではありません。

一方で、こういった急落局面でやっておいた方が良いこともあります。

株価下落に備えて余力を残して取り組んでいた場合には、追加投資を検討しましょう。積立によって定期的に運用資産を積み増している場合には積立金額を増額することを検討しても良いかもしれません。

ただし、1割程度の下落は年に何回か起こることなので、一気に増やし過ぎないことがポイントです。数年の運用経験しかない人は一気に追加投資したくなるようですが、1割程度の下落は絶好の投資チャンスというわけではありません。

さらに、下落率が大きくなり直近の高値から2割、3割と下落が大きくなっても更に追加投資できる余力を残しておくことが大切です。3割程度の下落までくれば、思い切って投資額を増やしてもいいかもしれませんが、そこまでくるとビビッてしまって決断できなくなる人が多いように思います。

市場環境が好調な時は誰でもリターンが得られますが、現在のような調整局面での対応によってその後の投資成果は大きく変わってきます。

いつ、どの程度の大きさの下落になるか事前に予想することは誰にも出来ません。

株式市場が急落しても慌てることのないように、追加投資の余力を確認し、現状のアセットアロケーション(資産配分)で想定される最大損失額をもう一度確認しておくことが重要だと考えます。

過度に恐れることなく、冷静に淡々と資産運用を続けていきましょう。

NISAで利用する商品を選ぶときの注意点

2024年からNISA(少額投資非課税制度)が大幅に改正され、様々なメディアを通じて特集が組まれていることもあり、NISAをどのように活用したらよいかといった相談が大きく増えました。そこで、今回はNISAで利用する商品を選ぶときの注意点について整理しておきます。

まず大前提となるのは、NISAでの運用であっても課税口座での運用であっても、資産運用の原則は変わりません。リスクをコントロールしながら確実性の高い資産運用に取り組むのであれば、投資対象を幅広く分散し、長期的な成長が期待できる投資信託に投資することになります。長期的な運用になるほど影響が大きくなるためコストの安さも重要です。つまり、多くの人にとっては全世界の株式を投資対象とするコストの安いインデックス・ファンドを利用することが無難な選択になります。

そして、新しいNISA制度の特徴を考慮すると、商品選びにおいて特に重要となるのが投資信託の持続可能性です。

新しいNISAの特徴は大きく3つあります。

1つ目は「運用益が非課税」であること。例えば、期待リターンが5%の運用だと通常は1%相当が課税されてしまいますが、NISAで保有すると実質的には年率1%相当が収益に上乗せされることになります。

2つ目は「無期限」であること。口座開設期間も恒久化され、いつからでも始めることができて運用を続ける限りずっと非課税のまま長期投資が可能です。

3つ目は「上限1800万円」と非課税枠が大きく広がったことです。

これらの特徴を最大限有効に活用するためには、長期で利用し続けられる商品を選ぶことが特に重要です。日本では現在5000~6000本の投資信託が運用されていますが、資金流入が安定していて一定の資産規模で運用されている投資信託はそれほど多くありません。NISAで投資可能な商品は約2000本に絞り込まれていますが、それでも規模が小さく長期にわたって運用を継続できそうにない商品が多く含まれています。残高が増えていかなければ、そういったファンドは繰上償還になってしまう可能性が高く、NISA制度は長期運用可能な仕組みになっても利用する投資信託の永続性が期待できなければ意味がありません。

制度改正によって、非課税枠で保有する商品を売却した場合には枠の再利用ができるようになりましたが細かい条件があります。それに、長期投資によって運用資産評価額が増えても、売却したり償還されてしまうと、当初の投資金額分しかNISAで再投資できません。

したがって、制度の特徴をしっかり理解していれば、20年後や30年後でも成長が期待できて保有し続けられる商品を選ぶことが合理的な選択になるはずです。

そして、新しいNISAには「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の2つの枠があります。

枠ごとに使い分けをするように主張する金融営業マンやメディア関係者も多いと感じていますが、買付方法が違うだけで使い分けを考える必要はありません

多くの普通の生活者にとっては、成長投資枠もつみたて投資枠と同様に低コストの世界株インデックス・ファンドに投資するのが合理的な選択になりますし、2つの枠で同じ商品に投資していた方が将来運用資産を取り崩す際の出口戦略の管理もしやすくなります

そもそも、「つみたて投資枠」では金融庁が、長期投資に適したバランス良く広く分散投資されていて、運用コストの安い商品を“適格”として選定しています。これに選ばれないような商品は「成長投資枠」にも不適格だと考えておくべきではないでしょうか。「成長投資枠」という言葉に迷わされてはいけないと思います。

保有する投資信託を売却して新NISAで買い直すべきか

新NISAについてのメディア報道もかなり増えていることもあり、新制度の活用に関する相談を受けることが多くなってきました。そこで、今回は既に保有する投資信託をどうするべきか整理しておきます。

まず、現在のNISA(一般NISA・つみたてNISA)非課税枠で保有する投資信託については、売却し現金化する必要はありません。新NISAの生涯非課税保有限度額(1800万円)とは別枠で、一般NISAは5年間、つみたてNISAは20年間非課税運用を継続できます。たとえば、一般NISAで2023年に投資した分は最長2027年まで非課税で投資を継続できます。つみたてNISAも同様で2023年に投資した場合は最長2042年まで非課税で投資を続けられます。

そして、非課税期間が経過する頃に売却して新しいNISAで改めて投資するのか、非課税期間終了後に自動的に移管される課税口座(特定口座)でそのまま運用を継続するか判断することになります。

特定口座で保有する投資信託については、今後の投資計画や保有資産額によって対応方法が変わってきます

2024年から始まる新しいNISAでは、最大で年間360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)まで投資できることになりました。収入の一部から資産形成を進めていて、毎月30万円以上の投資資金が確保できる場合は、新NISAの非課税投資枠をフルに使って資産形成を進めていくことになるため、特定口座で保有する投資信託はそのまま継続保有することになります。

また、収入の中から毎月30万円も投資できない場合でも手元に預貯金など投資可能資金が残っていて追加投資しようと考えている場合には、その資金を新NISAでの投資資金に充当しますので、特定口座で運用している投資信託はそのまま継続保有で問題ありません。

一方で、2024年以降の年間投資可能額が360万円(月額30万円)未満の場合には、特定口座で保有している投資信託を一旦売却して、新NISAで買い直すことを検討する必要があります

非課税で投資できる枠を残したまま課税口座で運用を続けることは合理的ではありません。特定口座で保有する投資信託を売却すると、一旦は税金負担が発生する可能性もありますが、今後の運用リターンが非課税になるメリットの方が確実に大きくなります。

ただし、これからさらに長期で運用を継続できることが前提です。特定口座で保有する資産を数年以内に取り崩したいと考えている場合には無理に売却することは避け、特定口座でそのまま運用を継続しましょう。

NISAで買い直した資産を売却した際に損失が発生すると、買い直さずにそのまま特定口座で保有を続けた場合よりもトータルの税負担が大きくなってしまうからです。

最後に、売却して新NISAで買い直す際にも注意点があります。それは、売却したらすぐに買い直すということです。売却した後に少し下がってから買い直そうと考えて待っているうちに、そのまま上昇が続いてしまい、気付くと買えなくなってしまうということはよくあります。

もう少し下落したら投資しようと考えていたのに、タイミングを見計らっているうちに投資のチャンスを失ってしまった経験はないでしょうか。

基本的には購入タイミングは気にせず淡々と追加投資や運用資産の組み換え(NISA枠での買い直しなど)を進めていくことをオススメしています。

 

NISA改正に向けて2023年にしておくこと

来年から改正される新NISAについてのメディア報道も増え、お客様から質問を受けることも多くなってきました。そこで、NISA改正に向けて2023年中に準備しておくことをまとめておきます。

まず、新NISAを使うために今年何か手続きをしておく必要があるのかについてですが、現行のNISA制度(つみたてNISA・一般NISA)を利用している人がそのまま同じ金融機関で新NISAを利用する予定であれば、特に準備手続きは必要ありません2024年になれば、自動的に今のNISA口座が「つみたて投資枠」と「成長投資枠」を備えた新NISA口座となります。

現在、特定口座は利用しているもののNISA口座は未開設という人は2023年中にNISA口座を開設すれば2024年の新しいNISA口座が自動的に開設されます。

もし現在利用している金融機関とは別の金融機関で新しいNISAを利用したい場合は、202310月以降に一定の手続きが必要です。新しいNISAは非課税運用期間も恒久化され長期にわたって使うことになりますし、投資可能額も大幅に増額され個人資産全体への影響も大きくなるため、個人のライフスタイルや活用法に相応しい金融機関に変更することも選択肢となります

ちなみに、新NISAでも年ごとに利用する金融機関の変更は可能とされていますが、資産管理が複雑になりますし、見直すのであれば新制度が始まるこのタイミングがオススメです。

 また、現行のNISAで保有している商品を売却しあらかじめ現金化しておく必要もありません。新NISAの生涯非課税保有限度額(1800万円)とは別枠で、一般NISA5年間、つみたてNISA20年間非課税運用を継続できます。たとえば、一般NISA2023年に投資した分は最長2027年まで非課税で投資を継続できます。つみたてNISAも同様で2023年に投資した場合は最長2042年まで非課税で投資を続けられます。ただし、5年や20年が経過したときにそれをロールオーバーして新NISAに非課税のまま移管することはできません。

いずれにしても、2023年までに現行NISAで投資した分は2024年に新NISAが開始されても、引き続き現行NISAの制度として保有を継続できますので、慌てて売却してしまわないように注意してください

現行のNISAで保有する商品は非課税運用期間が終わる頃に売却して新しいNISAで改めて投資するのか、非課税期間終了後に自動的に移管される課税口座(特定口座)でそのまま運用を継続するか判断することになります。

 来年から始まる新しいNISA制度を利用するにあたって、現行のNISAを利用していて同じ金融機関で新NISAを利用予定であれば、2023年中に必要な手続きはありませんが、NISAの活用方法によって10年後や20年後には数百万円単位の違いが生まれてくるため、新しいNISAをどのように使うのかについては早めに検討しておくことをオススメしています

 

 

個人投資家に社債投資を勧めない理由

日本の大手証券会社も個人投資家に販売していたスイスの金融大手クレディ・スイス・グループが発行した「AT1債」と呼ぶ債券の価値がゼロになりました。

販売した証券会社へ損害賠償を求める集団訴訟の準備が進められるなか、金融庁は販売金融機関に対して詳しい販売状況や顧客対応について報告するよう命令しています。

もし仮に自身の保有する投資商品の価値がゼロになってしまったと考えると暗澹たる気持ちになります。私は個別銘柄への投資を避けて投資信託を利用した資産運用をオススメしていますが、特に社債については個人が買うべき金融商品ではないと考えています。

そこで、今回は聞きなれないAT1債の説明から、社債投資の考え方や個人投資家が社債投資を避けるべき理由について整理していきます。

社債とは、企業が発行する借り入れ証券のことで、一定期間後に元本を返済することが義務付けられます。投資家は、社債を購入することで、発行企業から金利に応じた利息を受け取ることができます。返済期限までに企業が倒産等しなければ、約束された利息が受け取れて、期限に元本の返済が受けられることから比較的安全な投資対象とみられています。

AT1債とは、グローバルに活動する金融機関が発行する証券で、株式と債券の中間的な性質を持ちます。通常の債券よりは弁済順位の低い資産で、発行体が経営破綻すると元本や利息の支払が受けられない可能性があり、株式に近い位置付けとなります。「CoCo債」や「永久劣後債」といった名称で投資家に販売されていることもあります。

最近は、AT1債に限らず、個人向け社債の販売も増えてきていますが、私は個人投資家が買うべき金融商品でないと考えています。多くの個人にとって社債投資を勧めない理由は以下の通りです。

まずは、投資信託での運用と異なり投資先のリスクが集中してしまうからです。安定的な資産運用に取り組むためには分散投資が欠かせません。そして、債券投資は企業にお金を貸すことでもありますが、個人が企業の与信管理をすることは不可能です。仮に信用リスクを判断できたとしても、リスクに見合うリターン(利回り)を享受できない可能性が高い仕組みになっています

数億円単位で投資してもらえる機関投資家向けの社債と異なり、個人向けに社債を発行するためにはコストも余計にかかります。販売する金融機関にとっても相応の手数料が確保できるような条件となっていて、最終的な投資家の受け取れるリターンはどうしても低くなりがちです。

さらに、社債は流動性が低く、換金したくても不利な条件で金融機関に買い取ってもらうしか選択肢がないことが多いことも個人にとっては大きなデメリットです。

このように個人投資家にとって、社債投資はリスクが集中しやすく、投資判断が難しいうえ、リスクとリターンのバランスが釣り合わない投資対象です。

有名な企業の発行する債券と聞くとなんとなく安心して投資をしてしまう人も多いようですが、私は慎重に判断することをオススメしています。

相場変動を受け入れ投資を継続することでリターンが得られる理由

2021年末までは世界的に株式市場の上昇が続いていましたが、それ以降は変動を繰り返しながら停滞気味に推移しています。資産運用を始めて間もない方から、「期待していたほど増えないな」とか「このまま続けていて大丈夫なんだろうか」と感じて相談をされるケースが増えています。

 そこで、今回は株式市場が大きく変動しても長期でじっくり運用すれば最終的には儲かる可能性が高い理由や市場変動に負けずに資産運用を続けるポイントをまとめていきます。

 

株式は有価証券と言われるように価値がある資産です。しかも、価値が増加していく仕組みになっています。企業は利益を上げると一部を配当金として株主に支払い、残りは内部留保として株主資本に加えられ、株式の価値が増加していきます。

ただし、特定の企業の株式しか保有していないと、運悪くその会社が倒産してしまうかもしれませんし、継続的に利益を稼いでいけるとは限りません。

そこで、投資信託を使って世界中の企業の株式に幅広く分散して投資しておく必要があるのです。

 世界中の幅広い企業の株式に投資した場合のリターンは長期的にはGDPの成長に連動していきます。世界経済はゆっくり成長しています。世界の人口は増えていますし、発展途上国や新興国の人々の生活も確実に良くなっています。人類にはより良い生活を送りたいという本能的な欲求もあります。世界的にはインフラ投資が起こり、イノベーションも進み新しい商品やサービスが次々と生まれています。

したがって、一時的に経済成長が減速することはあっても成長が止まってしまうということは考えにくいのです。

もちろん短期的には大きな変動がありますが、長い期間投資を継続することによって相応の収益が得られるはずなのです。

様々な過去のデータを検証しても世界の株式に幅広く分散投資を続けていれば、年率57%くらいのリターンを得ることはそれほど難しいことではないことが分かります。

 

しかしながら、投資を継続することは簡単ではありません。

私はこれまで1000人以上の資産運用への取り組み方を見てきましたが、投資経験があまりないうちは不安に感じて投資を止めてしまう人や、逆に投資金額を増やし過ぎてしまいリスクを取り過ぎてしまう人がたくさんいます。

リスクをコントロールしながらきちんと投資を継続できている人はそれほど多くありません。

大きな下落局面が到来しても落ち着いて投資を継続できるようにしておくことが重要です。

私が資産運用をサポートするお客様には想定される最大損失額を必ず伝えて、いくらまでであれば一時的な損失に耐えられるかを確認し投資金額や資産配分を決定しています。

 

最悪の事態を想定できているか、そして当面の生活費など流動性資金を確保できているか、という2点が相場変動に負けずに資産を増やしていくためには重要なポイントになります。

 

 

コストを開示せずに販売される金融商品

世界的に金利が大きく上昇してきたこともあり、銀行や証券会社の担当者は海外債券への投資提案を増やしているようです。弊社のお客様からも債券投資について金融機関の担当者から「手数料はかからない」と説明されたがどういうことかと質問を受けるケースがあります。

そこで、今回はコストを開示せずに販売される金融商品についてお伝えします。

多くの金融商品は、きちんとコストが表示されています。たとえば投資信託であれば、販売手数料や運用管理費用(信託報酬)がそれに該当します。ただ、金融商品そのもののなかに、見えないコストが隠れているケースがあります。このコストは、商品販売のルール上、とくに顧客に対して説明する義務はない、というか、説明すべきコストに該当しないことから、営業担当者もあえてここには触れません。私も銀行員として営業現場で10年以上仕事をした経験があるため現場の実情をある程度把握できていますし、コストの表示義務がない金融商品は何も言わずに販売する担当者の気持ちもよく分かります。

たとえば同じ有価証券でも、株式の売買には委託手数料がかかりますが、債券の場合、「手数料はかからない」と、お客さまには説明されていると思います。たしかに、新たに発行される債券(これを新発債といいます)を購入する場合は、買付手数料がかかりませんし、それを償還まで保有して元利金を受け取る場合も、委託手数料の類はかかりません。償還はあくまでも償還であり、有価証券の売却には該当しないからです。一方、すでに債券市場で売買されている債券(これを既発債といいます)を購入、あるいは償還前に債券市場を通じて売却する場合、本来は委託手数料がかかります。

しかしながら、一般的な個人投資家は、債券市場で取引されている債券を買う、もしくは売却するのは非常に困難です。なぜなら、債券市場は機関投資家などプロの投資家が取引の中心であり、取引金額も1億円からなど、非常に高額だからです。そのため、個人投資家が委託手数料を証券会社に支払って、債券市場で既発債を売買するということは、ほぼありえないことです。

では、銀行や証券会社の担当者が提案する既発債への投資はどのような仕組みになっているかというと、証券会社が在庫として保有している債券を個人投資家が購入することになります。また、購入した債券を現金化する際も、債券市場で売却するのではなく、証券会社に買い取ってもらいます。こうすることによって、個人投資家でも既発債を売買できるようになっています。

ここで見えないコストの問題が発生します。債券を購入する際は、証券会社が「いくらで売りますよ」というように売渡価格を提示してきます。また保有している債券を売却する際には、同じように証券会社が「いくらで買い取ります」というように買取価格を提示してきます。この売渡価格と買取価格のあいだに、実は証券会社が受け取る収益が含まれているのです。

たとえば、債券市場において100円で取引されている債券を個人投資家に102円で販売したり、個人投資家から98円で買い取ったりします。すると、それぞれの取引で発生する2円の差額が証券会社の収益になります。このような価格差を「スプレッド」といいますが、その存在を証券会社が個人投資家に伝えることは、まずありません。投資家からすれば、スプレッドも手数料も同じ「コスト」なのですが、厳密にいえば、両者は異なるものなので、「手数料はかかりません」ということになります。

最近はメディアを通じて問題を指摘されることの多い仕組債にも見えないコストが内包されています。仕組債とは、債券の一種ではあるのですが、株価指数先物取引や株価指数オプション取引といったデリバティブを組み合わせた債券です。具体的にどのような債券かというと、たとえば、現在の日経平均株価が3万円として、これが2万4000円まで値下がりしない限り元本割れせず、高い利率が得られるといった仕組みをもっています。仕組債を組成するにあたってかかっている高いコストについては、どのくらいを盛り込んで中抜きしているのかは、外部の人間にはまずわからないようになっています。

金融庁が公表しているレポートの中では仕組債の実質的なコストは年率換算で810%程度に達すると指摘されていますが、まさに一般の個人投資家には見えないコストなのです。

他にも「リスク軽減型投資信託」などと称して売られている投資信託や保険商品にも開示されていないコストが含まれています。特定の商品のなかに、こうした見えないコストが含まれて割高になっていることを、金融機関の営業担当者がわざわざ顧客に対して伝えることはありません。顧客の側は、知らず知らずのうちに、表面上明示されている以上のコスト負担を強いられているのです。

世界的にはこうした見えないコストも含めて開示するのが潮流となっているようですし、日本でも全面的なコスト開示が必要だと感じます。全てのコストを開示しない金融機関や担当者を誰が信用するのでしょうか。

 

2024年からの新NISAに向けて今年中にできること

2024年からNISA(少額投資非課税制度)が大きく改正されることになり、お客様からの問い合わせやメディアからの取材も増えています。

予定されているNISA大幅拡充に備えて、今年どのような準備をしておくべきかとの質問を受けることが多く、今回はそれに対する私の考えをまとめておきます。

 

NISAの最大の特徴は、非課税枠が拡大し、非課税期間やNISAの利用期間が無期限化されたことです。

つみたて投資枠(年間120万円)と成長投資枠(年間240万円)を同時に利用することが可能で年間最大で360万円を非課税枠で投資可能です。

ただし、非課税投資枠をフルに何年間も使えるわけではなく「生涯非課税投資枠」という上限が1,800万円(うち成長投資枠部分は最大1,200万円)に設定されます。

つまり、つみたて投資枠の年間120万円を上限いっぱいでずっと続けていったとすると、15年間で1,800万円に到達しますので、それ以降は非課税投資枠が使えなくなるということです。

また、合計360万円の年間上限いっぱいまで毎年投資をした場合も、5年間で1,800万円に到達しますので、それ以降はNISA口座での投資ができなくなります。

 

2024年からの新NISAを踏まえて、2023年のNISA枠はどのように活用するべきでしょうか。

新制度は旧制度とは分離されて、別枠で管理されるため、現行の一般NISAやつみたてNISAの非課税枠で投資したものは、新制度が始まっても当初の予定通りその後5年間(つみたてNISA20年間)、非課税のまま運用可能です。

しかも、その投資額は新NISAの生涯非課税投資枠にも影響しないため、新制度がスタートするのを待つ必要はなく現状のNISA制度をフル活用することをオススメしています。

一般NISA120万円)とつみたてNISA40万円)のどちらを選択するべきかは、利用者の資産状況によって変わってきますが、2022年までと同じ制度を利用しておいた方が管理しやすそうです。

 

また、2024年から非課税投資枠が大きく広がるため、今年は投資金額を減らしておくべきかとか、一部を売却しておくべきかといった質問もあります。

こちらについては、新NISAのために投資余力を残す必要は無いと考えています。

来年株価が下落することが確実であれば、投資資金を残しておいたり、今保有する運用商品を売却しておくべきですが、1年後の株価水準なんて誰にも分かりません。相場の先行きを予想しながらNISAの利用方針を決める必要はありません

NISA制度がどのように変わったとしても個人のライフプランや資金計画に沿って淡々と追加投資を進めていくことが大切です。

したがって、NISA枠だけでなく課税口座でもこれまで通りの追加投資を進めていくことで問題ありません。

 

NISAを最大限有効に活用するためには運用期間が確保できているのであればできるだけ早く運用資産をNISAに集中させることが重要です。

そのため、これまで課税口座で保有している資産を一度売却して新NISAで買い直す方が良いケースもあります。

買い直すべきかどうかは、保有資産の状況とライフプランや今後の投資計画によって変わってきます。

こちらについては、今年の秋頃から検討していくことで問題ありません。

NISAのスタートまであと1年弱。金融機関の事務対応などまだ細かな部分が明確になっていないところもあります。

まずは現状のNISA制度をフル活用しながら新NISAのメリットを最大化するためにも、家族名義のNISA枠の活用などできることに取り組んでおくことが大切です。

 

NISA改正点とメリットを最大化する投資先とは

NISA(少額投資非課税制度)が大きく改正されることになりました。

これまで、現行の一般NISAが2023年で終了して、2024年から2階建ての構造を持つかなり複雑なNISA制度がスタートする予定でしたが、この「2階建てNISA」が取りやめとなり、利用可能金額も仕組みも大きく変わる新しいNISA制度がスタートすることになりました。

これまでのNISA制度で課題とされていた多くの問題が解決されていて、大変素晴らしい制度になっていると感じています。

そこで、今回は新しいNISA制度のポイントと活用方法を整理していきます

まず、一番大きな改正点は、制度が恒久化され非課税運用期間も無期限化されました。これまでのように一般NISAで5年、つみたてNISAで20年、といった制約がありません。いつでも始められるし、運用を続ける限りずっと非課税の恩恵が受けられます。

2つ目は利用可能額が大幅に増額され、年間で最大360万円まで投資が可能となります

生涯で1800万円という投資上限は設定されていますが、あくまでこれは投資元本(簿価)で管理されるため10年・20年といった長期的に運用していれば3000万円~5000万円の運用資産を非課税で保有することも可能であり、多くの人にとってはこれだけで十分な規模となります。

そして、投資の残高は投資元本(簿価)で管理され、売却した空き枠は再利用可能になりました。例えば、200万円で買った投資信託を300万円で換金して引き出した場合、投資可能残高には200万円分の空きが新たにできることになります。

ただし、空き枠は年単位で管理されるため、売却によって発生する空き枠を使って投資できるのは翌年以降となります。そのため、これまで同様に短期的な売買でNISAを使うことはできません。

また、これまでは投資対象や投資方法が限定されていない「一般NISA」と積立投資限定の「つみたてNISA」の選択制でどちらかしか利用できませんでしたが、新しい制度では「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の併用が可能になりました。併用することで年間360万円まで投資できます

改正後NISAの活用のポイントは、運用期間が確保できているのであればできるだけ運用資産をNISAに集めることが重要です。ただし、新制度は旧制度とは分離されて、別枠で管理されるため、現状のNISAで保有する資産は当初の予定期間(一般NISAで5年、つみたてNISAで20年)は非課税のまま運用が継続できます。したがって、新制度がスタートするのを待たずに利用できる人は現状の制度もしっかり利用する方が非課税メリットを活かし効率的に資産運用できます。

そして、今後さらに重要性が増すのは家族名義のNISA枠の活用です。

配偶者だけでなく親や子供名義など、家族みんなの非課税枠を活用することも重要です(ただし、未成年者は新しい制度を利用できません)。

成長投資枠とつみたて投資枠が分かれていますが、長期的なリターンを追求するのでれば、成長投資枠もつみたて投資枠と同じように使うことがオススメです。

メディアや金融関係者はそれぞれの投資枠の利用法や使い分けをアピールしていくことが予想されますが、投資先はどちらの枠であっても、広く分散投資されていて、手数料が安い商品が良いということには変わりません

売却分の空き枠を再利用できると言っても、投資元本分だけであり、売却した金額をそのまま再利用できるわけではないため、できる限り売却せず長期間保有を続けられる商品を最初から選択しておくことが最善の活用法になります。具体的には、世界の株式に投資するインデックス・ファンドで手数料の安いものに集中させるというのが最も効率的にNISA制度を利用するための投資先になるでしょう

改正後のNISAは使い勝手が向上し、金額的にも大きくなり、効率的に使えるかどうかで数百万円単位の違いが生まれます。現状の制度も2023年までは活用し新制度のスタートを待つ必要はありませんが、2024年から始まる新制度の利用方針については、保有資産の状況、今後の投資可能金額、運用可能期間など個人のライフプランと資金計画に合わせて早めに利用方針を検討しておく必要がありそうです。

 

NISA・ジュニアNISAでのロールオーバー手続き

2018年にNISA口座で投資した商品を保有している人には取引金融機関からロールオーバー手続きの案内が届いています。

一般NISA(非課税投資限度額:年間120万円)やジュニアNISA(非課税投資限度額:年間80万円)を利用していると、非課税期間が終了する年末に毎年手続きが必要なため、今回はロールオーバー手続きについて整理していきます。

なお、「つみたてNISA(非課税投資限度額:年間40万円)」を利用している場合は20年間非課税運用が可能な仕組みになっていてロールオーバー手続きは必要ありません。

一般NISAとジュニアNISAはともに非課税期間が5年なので、非課税期間を延長し、非課税口座で保有し続けるためには、翌年の一般NISA(またはジュニアNISA)に商品を移し替える「ロールオーバー」の手続きを行う必要があります。

この手続きを忘れてしまうと、自動的に課税口座(特定口座)へ移されてしまいます。

非課税運用の期限が到来しても勝手に売却されたり運用が終了することはありませんが、節税メリットを受けられなくなります。

ロールオーバーが可能な金額に上限はなく、非課税期間終了時に運用資産の評価額が120万円(ジュニアNISAの場合80万円)を超えていても全額ロールオーバーできます。これは非課税投資枠を増やすことができるため非常に大きなメリットになります。

一方で、ロールオーバーする際の注意点もあります。

翌年の非課税投資枠を利用するので、新たな資金で投資できる金額は少なくなります。120万円以上になっている場合にはNISAでの新規投資はできません。

また、ロールオーバー手続きには期限があります。金融機関によっては12月上旬に期限を設定しているところもあります。

(SBI証券は12月8日、楽天証券は12月30日)

ジュニアNISAでのロールオーバー手続きには申込書類の“郵送”提出が必要な金融機関もあるので注意が必要です。

(楽天証券のジュニアNISAロールオーバー申込書は12月16日までに投函が必要)

では、ロールオーバーするべきかどうかどのように判断したらよいのでしょうか。

ポイントはいくつかありますが、まずは保有している銘柄(商品)の継続保有意向です。引き続き保有しておきたいと思える銘柄であれば、ロールオーバーします。

特に、2018年に投資した商品の評価額は大きくプラスになっていることが多いため、今回は多くのケースでロールオーバーした方が良いでしょう。

商品の見直し余地が多少はあったとしても、現在の評価額が120万円超となっているのであれば非課税枠を拡大できるのでロールオーバーすることをお勧めしています。

一方で、利用者によっては「一般NISA(非課税投資上限:年間120万円)」ではなく、2018年から開始された「つみたてNISA(非課税投資上限:年間40万円)」に切り替えた方が良いケースもあります。非課税運用期間は20年と長く、仕組みがシンプルで使いやすい制度です。

2022年まで「一般NISA」を利用し、2023年から「つみたてNISA」に変更したいという場合には、「区分変更」手続きを行いましょう。

最後に、一般NISAについては2024年から2階建ての新NISAに切り替わる予定でしたが、金融庁が2022年8月に取りまとめた税制改正要望項目では見直しが提案されています。12月に発表される税制改正大綱と2023年の法改正を経て最終的にどのような形になるかは未定ですが、一般NISAは大きく変わる可能性があり、今後も注目しておく必要があります。