「投資」という言葉の4つの意味

 

最近も芸能人の投資詐欺事件が報道されましたが、投資に関するトラブルはなくなりません。

その多くはそもそも投資でもなんでもなく単なる詐欺事件であることがほとんどです。こういう事件が起きるたびに、「投資は胡散臭い」とか「投資は危険である」といった誤った情報が流布されてしまうことが非常に残念でなりません。

そこで、今回は「投資」という言葉の意味について整理していきます。

日本で投資に対するイメージが悪いのは「投資(トーシ)」という言葉に誤解があるからだと感じています。「トーシ」という言葉は大きく分けると「投機」、「短期投資」、「長期投資」、「資産運用」の4つの意味で使われていて、多くの場合、投資は投機と誤解されています。

「投機」とは、結果に法則性がなく偶然性に賭けている取引であり結果をコントロールする術がありません。サイコロの目を当てたり、コインの裏表を当てるようなゲームが典型的です。

株式や債券などの証券投資の結果にはある程度の法則性があり、結果をコントロールする方法があります。何よりも経済活動の一端を担う取引であり、実物経済の裏付けがある点が投機とは大きな違いです。

投資にも「短期投資」と「長期投資」があります。

株式の短期投資は対象が「価格」です。株価の変動に賭け、売り買いによってリターンを追求します。一方で長期投資は対象が「企業価値」です。

生み出した利益により企業が成長し価値が増大するのには時間がかかります。したがって、必然的に長期投資になります。

また、「資産運用」と「投資」も大きな違いがあると私は考えていますが、一般的には明確な区別なく使われていることが多いようです。

資産運用は文字通り「資産」全体を「運んで用いる」ということです。保有する資産全体の価値に着目する必要があります。保有する資産の一部で投資に取り組み価格が2倍になったとしても、その資産が個人資産全体の数パーセントだったとすると、人生における資産運用としては全く意味がありません。

資産全体を有効に活用し、できる限り安定的に増やしていこうというのが資産運用であり、私は人生において必要不可欠なものだと考えています。

以上のように、投機、短期投資、長期投資、資産運用はそれぞれ異なる意味を持っています。

実際に英語では明確に言葉が違っています。投機は「スペキュレーション(speculation)」、短期投資は「トレーディング(trading)」、長期投資は「インベストメント(investment)」、資産運用は「アセットマネジメント(asset management)」です。

日本語ではこれらをすべて「トーシ」という言葉でまとめてしまっていて、これが投資に対して得体のしれない怖いものといったイメージを作っているように思います。

私は資産運用アドバイザーとして、個人資産全体のマネジメントをサポートすることが役割だと考えています。

保有資産の中でどのくらいを投資に回すべきか、最適な投資スタイル、投資プランを個人ごとに策定し提案します。投資銘柄やタイミングの推奨が主な仕事ではありません。

個人によってベストな投資プランは変わってきますが、個人の取り組む投資方法には王道と言われる投資スタイルがあります。それは運用資産の大半を占め中核となる「コア」部分で投資信託を使った長期投資に取り組み、興味や関心があれば「サテライト」部分で投機や短期投資に取り組み更なる収益性アップや楽しみを追求する方法です。

こうした方法でリスクをコントロールしながら長期投資に取り組めば、資産を増やしていくことはそれほど難しいことではありません。

まずは多くの人が王道と言われる投資法について知り、取り組む人が増えると、投資に対するイメージも改善していくのではないでしょうか。

 

 

最適な資産配分の考え方

資産運用を始めるときに最初に何を考えるべきでしょうか。

投資対象(何に投資するか)やタイミング(いつ投資するか)を気にされる人が非常に多いですが、この2つよりも重要なのが資産配分です。

金融のプロの間では半ば常識になっていますが、長期的な投資成果は資産配分でほとんど決まってしまいます。もっと簡単にいうと、運用資金を資産の種類(国内外の株式・債券など)ごとにどれぐらいの割合で投資するのかによって将来のリターンがほぼ決まってしまうということです。

公的年金の積立金運用では現在4資産(国内債券・国内株式・海外債券・海外株式)へ25%ずつの均等配分が基本構成割合となっています。

私も講演活動や出版した書籍などで4資産への分散投資成果を示しながら資産運用の考え方を伝えることが多くあります。4資産分散というのは、いかなる経済環境であっても、どのような人にとっても長期の分散投資を理解し実践しやすい無難な方法であり、失敗する可能性が極めて低く初心者でも安心して運用を続けられる方法だからです。

しかしながら、この資産配分がベストということではありません。むしろ、誰にとってもベストとは言えず、4資産均等配分では効率的な資産運用にはならないと考えています。

最適な資産配分は、保有資産や家計収支、リスク許容度などによって変わってきますし、マクロ経済環境を考慮した調整も必要です。

現在は世界的に金利上昇局面にあり、海外の債券クラスへ25%配分することは望ましくありません。国内の債券クラスもリターンが期待できない状況にあり、国内債券クラスに資産を配分するくらいであれば、円預金としていつでも使える資金を保有しておくことが有効です。

株式クラスのみに投資することは、短期的な価格変動が大きくなりますが、それを理解し

資金的にも精神的にもリスクを許容できる人であれば、株式中心に配分して運用することが効率的です。

国内と海外の比率については、世界の株式市場における国内株式市場のシェアは5~6%程度であることを考慮すると海外株式中心に資産を配分するのが妥当だと私は考えています。ただし、海外株式中心の資産運用に取り組むと為替相場の影響が大きくなりすぎてしまうため、運用資産の規模や運用可能期間によっては為替ヘッジ付き商品を組み合わせるなど為替リスクをコントロールすることも必要です。

資産運用において資産配分が重要なことは間違いありませんが、最適な資産配分に絶対的な正解はありません。場合によっては、分かりやすさや管理しやすさ、納得度合いを優先して決めても良いと思います。

資産運用における為替ヘッジの考え方

国際分散投資により長期的なリターンを期待して資産運用に取り組むと海外資産を中心に投資を行うことになり、為替相場の動向によって運用結果が大きく変わってしまいます。

そのため、為替相場の影響を抑えて安定的な資産運用を実現するために為替ヘッジ付きの投資信託を利用することもありますが、今年に入りその為替ヘッジコストが上昇しています。

そこで、今回は資産運用における為替ヘッジの考え方を改めて確認していきます。

為替ヘッジ付きとは、将来為替相場がいくらになっていても「1ドル=〇〇円」で交換しますという為替予約の仕組みを利用して、為替相場が大きく変動してもその影響を受けないようにしています。

円高によって評価額が下落するのを避けられますが、円安が進んでも、本来海外資産に投資することで得られるメリットは受けられません。

そして、為替ヘッジ付きの投資信託はリスクを抑えられる代わりにヘッジコストがかかります。

ヘッジコストとは、コストといっても金融機関が徴収する手数料ではありません。

外貨の短期金利と円の短期金利の差がベースとなっていて、それに各通貨の需給などの状況により発生する金利(ベーシス・スワップ・スプレッド)が上乗せされます。

昨年末に0.3%前後だった米ドルのヘッジコストは足元で1.7%台となっていて、今年に入ってから大きく上昇しています。

今回のヘッジコスト上昇の背景には、日米の金利差の拡大に加えて、世界の金融市場で米ドルの調達コストが上昇していることがあり、今後も日米の短期金利差の拡大に伴い、ヘッジコストが一段と上昇する可能性があります。

資産運用においてコストを抑えておくことは非常に重要ですが、為替ヘッジのためのコストは負担するだけのメリットがあります。

ただし、相応のコストを負担して為替リスクをヘッジしておくべきかどうかは、個人の年齢や投資金額、運用方法によっても変わってきます。

シニア世代が退職金などまとまった額を運用する場合には、一定程度為替ヘッジ付きの商品を利用するのが妥当でしょう。ひとたび円高が進んだら円安に戻るのを待つ時間的な余裕がないかもしれません。想定外の資金ニーズが発生する可能性もあります。

一方で、これから資産を形成していこうと考える若年層や相応の収入が期待できて投資余力の大きい投資家は為替ヘッジの必要性は低いでしょう。

積立投資であれば円高進行時には多めの口数を買えて長期的なリターンを高めることにもつながります。

他にも、十分な円預金を確保していて個人資産の中のごく一部の資金で投資していこうと考えている場合も為替ヘッジ付きの商品を使う必要性は低くなります。

最終的にはその時点の為替水準によっても為替ヘッジの意義は大きく変わりますが、リスクを抑えた安定的な資産運用を目指すのであれば、為替変動の影響を抑えておくことも有効な戦略になります。

リスクを抑えたいからといって全て為替ヘッジ付きの商品で運用するのは適切ではありませんが、個人金融資産全体の中で為替相場の影響を受ける資産の割合を意識的にチェックしバランスが偏らないように調整しておくことが大切です。

 

投資信託の基準価額変動要因について

 

ドル円相場は一時130円台まで上昇するなど約20年ぶりの円安水準で推移しています。

リスクを抑えながら国際分散投資に取り組む個人投資家にとって投資信託は欠かせない金融商品となっていて、ドル円相場の上昇により多くの投資信託が上昇しています。

そこで、今回は投資信託の値段である「基準価額」の変動要因について整理していきます。

 

基準価額とは、投資信託が今いくらなのかということを示す数字で、株式でいうところの「株価」のようなものです。つまり、投資信託の値段であり、今いくらで購入できるのか、あるいは解約するといくらになるのかを判断する基準になります。

ただし、株価と決定的に異なる点があります。それは、株価がマーケットの動向によって時々刻々と動いていくものであるのに対し、投資信託の基準価額はそこまでリアルには変動しません。日本の投資信託の場合は毎日1回、市場が終了した、午後3時以降に基準価額が計算され公表されます。

また、「株価」は、株式市場の取引に参加している市場参加者の需給バランスによって決まります。つまり、株式の買い手が多ければ値上がりし、逆に売り手が多ければ値下がりします。これに対して、投資信託の「基準価額」は、需給バランスで決まるわけではありません。

「人気があるから〇〇ファンドは高くなっている」と勘違いされる方も多いのですが、投資信託の場合は需給(=人気)によって基準価額が動くわけではないため注意が必要です。

 

基準価額は、その投資信託が投資している株式や債券などの時価総額に、利息や配当金などの収入を加え、そこから運用コストを差し引いた金額を総口数で割って算出されます。

 

また、「基準価額が30,000円の投資信託Aよりも15,000円の投資信託Bの方が割安でお買い得である」と考える人もいますが、これもよくある勘違いです。

投資信託は運用開始する前日の価格を10,000円として基準価額を設定しているため、同じような投資信託であっても運用開始したタイミングによって基準価額の水準は大きく変わってきます。

一般的な買い物と違って投資信託の値段は商品選びの際に参考にならないし、参考にしてはいけないということです。

 

つづいて、基準価額の変動要因について確認します。

投資信託が投資対象としている株式や債券の評価額が上がれば純資産総額が増加して基準価額の上昇要因になります。反対に、評価額が下がれば基準価額の下落要因になります。

例えば、国内株式に投資する投資信託の場合、投資している企業の株価変動と投資信託の基準価額の変動はほぼ一致します。

一方で、海外資産に投資するファンドの場合、投資対象資産の価格変動に為替変動の影響が加わります。

株価がそんなに動いていなくても、ドル円相場の変動によって投資信託の基準価額が大きく上昇することがあります。

米国株式の場合「NYダウ」や「S&P500」という株価指数の変動がニュースで報じられます。その際には「NYダウが〇〇ドル上昇した」などと、必ず現地通貨建てで報道されます。

保有する投資信託の評価額が上昇している場合でも、それが株価上昇によるものなのか、為替相場の変動によるものなのかをしっかり区別して認識しておくことが重要です。

 

最近の基準価額の上昇要因は、投資対象株式の上昇ではなく為替変動による部分が大きくなっています。したがって、為替相場の円安トレンドが変わってしまうと保有投信の損益状況も大きく変わってしまうことは覚悟しておいた方がよさそうです。

 

 

資産運用における為替リスクの考え方

ドル円相場は一時125円台まで上昇し、2015年以来の水準まで円安が進行しました。

海外株式が投資対象となっている多くの投資信託の基準価額が急上昇して驚かれた方も多いようですが、これは円安の進行によって円換算した評価額が大きく上昇していることが要因です。

そこで、今回は資産運用における為替変動の影響やリスクに対する考え方を整理していきます。

 

米国の株式市場は3月中旬以降上昇傾向にありますが、年初からの下落をカバーするほどは回復していません。しかし、米国株式で運用する円建ての投資信託の基準価額は既に昨年末の水準を上回るところまで上昇しています。

世界の金融市場における国内市場のシェアは年々低下しており、国内の債券市場はほとんどリターンが期待できず、国内株式市場も長期的な成長を期待できないと考える人が増えています。市場規模に応じて国際分散投資に取り組むと、必然的に海外資産を中心に配分することになります。

そのため、日本人の資産運用において、為替相場の影響はかなり大きくなっていて、為替動向に依存するようなポートフォリオになっているケースも見受けられます。

 

今回は短期間で10円以上円安が進行しましたが、同様に円高が急速に進行するリスクも想定しておく必要があります。

しかしながら、為替相場の先行きを予想することは株式市場の予想以上に難しいと言われています。

短期的には金利動向によって変動することが多く、今回も日銀の「連続指し値オペ(公開市場操作)」を行うとの発表をきっかけに急速に円安が進行しました。

一方で、長期的には2国間のインフレ率の格差で為替相場が決まるという購買力平価の考え方が有力なようです。相対的に高インフレ通貨は低インフレ通貨に対して為替相場は下落すると考える理論であり、将来的には円高が進行するシナリオも十分にあり得ます。

 

したがって、個人が長期的な資産運用に取り組む場合は、為替はあくまでも2つの通貨の交換比率であるということを意識して、円高・円安のどちらに変動しても困らないようにリスクをコントロールしておくことが重要です。

そのための1つの方法が為替ヘッジ付き商品の活用です。

 

また、運用資産の資産配分に注目しがちですが、大事なのは預金なども含めた個人資産全体に対する為替リスクのある資産の比率です。

流動性預金を十分に確保して、ごく一部の資金で運用に取り組む場合は投資先が為替リスクのある海外資産のみでも問題ありません。

 

他にも、海外資産で運用する際に注意すべきことがあります。

それは、「海外資産」と「外貨建て資産」の違いを意識することです。

円安進行リスクに備えるために「外貨建て資産」の保有を増やすように提案する金融機関や営業マンもいますが、多くの人にとって「外貨建て資産」を保有する必要性はありません

「海外資産」と「外貨建て資産」の違いを理解できていない金融機関の担当者やファイナンシャル・プランナーが多くいますので営業マンのセールストークに惑わされないことも重要です。

 

【参考記事】「海外資産」は必要だが、「外貨建て資産」を保有する必要はない

https://bit.ly/3Ductoc

 

当面は、円安が進行する可能性も高そうですが、為替相場の先行きを予想して投資行動を変える必要はありません。個人の家計キャッシュフローやライフプラン、運用予定期間を考慮して長期的な視点で資産運用に取り組むことが重要です。

 

 

 

株価下落局面における資産運用のポイント

ロシアのウクライナ侵攻により、世界中の株式市場が一時的に急落しました。

ウクライナ情勢自体は主要国の景況感や企業業績に致命的な打撃を与えるリスクは低く、金融市場はコロナショックの時のようなパニック状態にはなっていないようです。ただし、ロシアの軍事侵攻によって資源価格が高騰していることが、米国FRBをはじめ各国の金融政策に影響を与える可能性があり、2022年はやはり一年を通して不安定な相場展開が続くと想定されます。

 

そこで、今回は株価下落局面でのポイントについて改めて整理していきます。

 

まずは取り組んでいる投資スタイルをしっかり認識しておくことが重要です。

短期的にリターンを追求して売買を繰り返すような投資スタイルであれば、有事の際にも株価動向を見ながら色々と対応していく必要がありますが、長期的な視点で分散投資を徹底し資産価値の上昇からリターンを追求していくスタイルであれば、やることは変わりません。

株価回復に時間がかかったとしてもライフプランに悪影響が出ないよう投資額を増やし過ぎず、当初の投資方針に沿って運用を継続するだけです。

 

株価急落局面で絶対にやってはいけないことは、評価額の下落を恐れて売却してしまうことです。

「まだ下がるだろうから一旦売却しておいて、安くなったところで買い戻そう」と考える人もいるかもしれませんが、それもお勧めできません。多くの人は買い戻すタイミングを逃してしまい、市場回復局面でのリターンを得られないだけでなく、何もせずに保有し続けた場合よりも少ないリターンしか得られません。確実にリターンを獲得するためには『市場に居続けること』が大切です。

そして、積立投資により運用資産の積み上げに取り組んでいる場合には積立を停止してしまうことも絶対に避けておきたいことです。下落局面で買い増しを続けていくことが大きなリターンにつながります。

世界全体でみれば経済成長は続き、どのような金融ショックが起きてもいずれ元の水準を回復しています。

 

一方で、こういった下落局面でやっておいた方がいいこともあります。

株価下落に備えて余力を残して取り組んでいた場合には、追加投資を検討しましょう。積立によって定期的に運用資産を積み増している場合には積立金額を増額することを検討しても良いかもしれません。

ただし、1割程度の下落は年に何回か起こることなので、一気に増やし過ぎないことがポイントです。数年の運用経験しかない人は一気に追加投資したくなるようですが、1割程度の下落では絶好の投資チャンスというわけではありません。さらに、下落率が大きくなり直近の高値から2割、3割と下落が大きくなっても更に追加投資できる余力を残しておくことが大切です。3割程度の下落までくれば、思い切って投資額を増やしてもいいかもしれませんが、そこまでくるとビビッてしまって決断できなくなる人が多いように思います。

 

市場環境が好調な時は誰でもリターンが得られますが、2022年のような不安定な市場局面での対応によってその後の投資成果は大きく変わってきます。

過度に恐れることなく、冷静に淡々と資産運用に取り組むことをお勧めします。

 

 

2022年の投資に対する考え方

2021年の株式市場は日経平均株価が一時バブル期以来の3万円台まで上昇し、米国の株式市場は何度も史上最高値を更新しました。

2022年はまだ1ヶ月足らずですが新型コロナのオミクロン株の世界的流行やインフレ懸念、米国の利上げ見通しなどから変動の大きな展開が続いていて、今年は一年を通して不安定な相場展開が続くと想定されています。

「金融緩和→株価上昇→金融引き締め→株価下落」というサイクルは過去に何度も繰り返されてきた循環であり、政策金利の引き上げにより株価下落局面が何度か到来することを覚悟しておく必要がありそうです。

しかしながら、いつもお伝えしているように、相場の先行きを予想して運用方針を大きく変える必要はありません。

短期的には株式市場がもう少し下落していく可能性が高いとしても、当初の資産運用方針に沿って淡々と投資を続けていくことが重要です。

投資のリターンは企業の持続的な事業活動(利益追求)から生まれます。世界経済が中長期的には成長していく前提に立つと資産運用の大部分を占めるコア資産の運用方法を変える必要はありません。

一旦売却して利益を確保しておきたいとの衝動もよく理解できますが、相場下落時に首尾よく買い戻すことは至難の業です。また、現状の市場環境でキャッシュポジション(個人資産全体に占める現預金の比率)を大きくし過ぎることはお勧めできません。

資源価格や不動産価格の高騰からも分かるように、現金や通貨の価値が下落し続けるリスクも高まっているからです。

毎年繰り返しお伝えしていますが、新年を迎えたこのタイミングでやっておくべきことは、個人資産全体の資金計画やリスク許容度の確認でしょう。

具体的には、以下の3つがポイントになります。

1.ライフプランやキャッシュフロー計画に沿って、今後数年間に必要となる資金が確保できているか。

2.現在の投資総額から想定される最大損失額はいくらか、精神的に許容できる範囲内か。

3.株式市場が下落した時には追加投資できる余力が残っているか。

特に今年は株式市場が下落した際に追加投資できる余力をどのくらい確保できているかを確認し、積立投資などによって時間分散をしながら追加投資が実行できると、リターンの改善が期待できます。

金融市場が不安定な局面ほど、短期的な予測に振り回されず、ライフプランやキャッシュフロー計画を定期的に見直しながら資産運用に取り組むことが重要です。

 

資産運用に必要な見直しとは

資産運用は長期間にわたって継続していくことになります。

ライフプラン(人生計画)に基づいて資産運用プランを綿密に作成したとしても、計画通りの人生とならないのが当たり前です。収入や支出の変化も想定通りとは限りません。

したがって、ライフプランの修正や資産状況の変化に応じて、資産運用についても定期的な見直しが欠かせません。

そこで、今回は資産運用の見直しについて整理してきます。

 

長期的な資産運用には「リバランス」が必要と言われます。

リバランスとは時間の経過に伴う相場変動により、資産運用を始めた当初に組んだ資産配分比率からズレが生じてきます。このズレを解消するために、比率の高くなった資産を一部売却したり、比率の低下した資産を買い足したりすることで、資産配分比率を元の配分に調整することをリバランスといいます。

 

リバランスをすることでリスク水準をコントロールし、想定以上のリスクを取った状態になってしまったり、反対に期待したリターン水準に達しないポートフォリオになってしまうことを防ぎます。また、中長期的な投資パフォーマンスの向上にもつながります。

どの資産も右肩上がりに上昇し続けることはありませんので、値上がりした資産を一部売却して利益を確定し、その資金で値下がりした資産を安く購入することでパフォーマンスを改善できる可能性が高くなります。

 

リバランスをする際には、運用資産の中で株式や債券などの比率を調整するだけでなく、リスク資産と現預金など安全資産のバランスを意識することが重要です。

特にここ数年の金融市場は金利低下により債券クラスを組み入れるメリットが低下しているため株式クラス中心のポートフォリオを構築することが多くなっています。その場合は安全資産とリスク資産のバランスを定期的にチェックしておくことをお勧めしています。また、今後3年~5年で必要な資金が確保できているか、暴落局面に遭遇しても追加投資する余力が確保できているかも同時に確認しておきましょう。

 

そして、個人の資産運用において「リバランス」よりも大切なことがあります。それは、ライフステージや資産状況の変化に応じた「リアロケーション(資産配分比率の見直し)」です。

資産形成に取り組む30~40代、収入も増えて資産構築も進んできた現役バリバリの50代、退職後のセカンドキャリアを見据えた60代では、それぞれ資産運用において許容できるリスクの大きさも変わってきます。

保有する資産規模やキャッシュフロー(家計収支)が変化しているのに投資方針が同じままでは適切な資産運用ができているとはいえません。

 

数年間、リバランスをしなかったとしても人生を通じた資産運用にそれほど影響はありませんが、5年・10年経過してライフステージや資産状況、キャッシュフローが変化している場合には現在の運用方針が適切かどうか確認しておくことが極めて重要になります。

アドバイザーの提供できる価値とは

最近、金融業界でもアドバイスビジネスに取り組む金融機関が増えています。

営業活動で金融商品を売り込むビジネスからようやくアドバイスで付加価値を提供しようと意識が変化してきました。そこで、今回は本物のアドバイザーが提供できる価値について整理してみます。

 

アドバイザーの提供できる価値にはすぐに実感してもらえる価値と時間がかかるものがあります。

多くの人が期待するのはアドバイスに従って投資することによって、お金が増えることだと思いますが、運用成果という価値提供には時間がかかります。運用成果は短期的には運によるところが大きいからです。ギャンブルのような投資ではなく、合理的にリスクをコントロールすればするほど短期的に増やすことは難しくなります。したがって、運用成果による価値を感じてもらうためには超長期の時間が必要です。

 

一方で、すぐに実感してもらえる付加価値もあります。

分かりやすいのはコスト削減や節税効果です。同じような金融商品でもコストが10倍近く異なることはよくあります。大手金融機関が提案している金融商品や金融サービスと同じような機能を10分の1のコストで実現できることはよくあります。

また、税優遇制度を効率的に活用することで得られる節税メリットもすぐに違いを実感してもらうことが可能です。公的制度をしっかり理解し、最適なアセットロケーション(資産配置)を実現できると節税によって多くの資金を手元に残せます。

 

資産運用により期待できるリターンは不確実ですが、確実にリターンを改善できる数少ない方法がコスト削減と税負担の軽減です。

 

他にも、保険の適正化によって、過剰に加入されている保険料を削減できることも多くあります。将来家計のキャッシュフローを見える化することで不安解消や安心感という価値を実感していただけることもあります。

公的年金制度に不安を感じている方には具体的な年金シミュレーションを行い、「いつから」「いくら」年金がもらえるのかお伝えし、年金額を少しでも増やすための対策を提案します。また、保有している金融資産の中でどこまで投資していいのかご自身では判断できないお客様に対しては、リスク許容度を確認しながら個人に最適な資産運用プランを提案することで、個人資産全体を最適化する投資金額が決まることもあります。

不動産投資と金融資産運用のバランスについての助言に価値を感じていただくこともあります。

 

以上のように短期間でも提供できる付加価値は十分ありますが、継続的にサポートをするからこそ提供できる価値もあります。

必要なタイミングに必要な金額が確保できるよう個人のライフプランや資金計画に合わせて、投資金額をコントロールしたり、運用資産の配分を調整していくことは、長期的な視点で効率的に資産を活用し、収益を確保することに繋がります。

また、相場急変時の対応についてはお客様の資産状況や投資に対する考え方を把握しているからこそ迅速な提案が可能になります。

 

NISAロールオーバーの判断ポイント

2017年からNISA口座を利用している人には取引金融機関からロールオーバー手続きの案内が届いていると思います。

一般NISA(非課税投資限度額:120万円)だけでなくジュニアNISA(非課税投資限度額:80万円)を利用している人も所定の期限までにロールオーバーするかどうか判断する必要があるため、今回はその判断ポイントを整理していきます。

 

NISAで購入した投資信託や株式は売却益と配当に対する利益が5年間非課税となります。5年の非課税期間が終了した後も翌年のNISA非課税枠へ移すことで、さらに5年間非課税で運用を継続することが可能になります。

このような翌年のNISA非課税枠へ移す手続きを「ロールオーバー」と呼びます。

ロールオーバーしない場合は自動的に課税口座(特定口座)へ移されて運用を継続することになります。非課税運用の期限が到来しても勝手に売却されたり運用が終了することはありません。

 

ロールオーバーが可能な金額に上限はなく、非課税期間終了時に運用資産の評価額が120万円を超えていても全額ロールオーバーできます。これは非課税投資枠を増やすことができるため大きなメリットになります。

 

一方で、ロールオーバーに関する注意点もあります。

翌年の非課税投資枠を利用するので、新規投資できる金額が少なくなります。120万円以上になっている場合にはNISAでの新規投資はできません。

他にも、損益がマイナスの状況でロールオーバーせず課税口座に移してしまうと税負担が増加し、実際は利益を得ていないのに課税されてしまう可能性が発生します。

また、ロールオーバー手続きには期限があります。金融機関によっては12月上旬に期限を設定しているところもありますので注意が必要です。

 

では、ロールオーバーするべきかどうかどのように判断したらよいのでしょうか。

私は2つのポイントを基準に判断しています。

 

まずは、保有している銘柄(商品)の継続保有意向です。

今からでも非課税枠でさらに追加して投資したいと思える銘柄であれば、ロールオーバーします。非課税運用に適した銘柄が他にある場合や同タイプのインデックス・ファンドでさらに低コストの商品がある場合には非課税期間終了後に投資先を切り替えるためロールオーバーせず一旦課税口座へ移します。

 

続いて、現時点の評価額を考慮します。

コストが低いインデックス・ファンドに切り替えたいと考える場合でも、評価額が120万円を大きく超える場合はロールオーバーして同じファンドで運用を継続する方がメリットは大きくなります。

 

商品の見直し余地が多少はあったとしても、現在の評価額が120万円超となっているのであればロールオーバーすることをお勧めします。

数ヵ月前に金融所得課税へ注目が集まりましたが、税金負担は確実にマイナスのリターンとなるため、少しでも多くの資金を非課税で運用することを優先すべきではないでしょうか。

 

そもそも、「一般NISA(非課税投資上限:年間120万円)」ではなく、2018年から開始された「つみたてNISA(非課税投資上限:年間40万円)」に切り替えた方が良いケースもあります。

「一般NISA」だと毎年ロールオーバーするかどうか判断する必要がありますが、「つみたてNISA」であれば、この判断も必要ありません。非課税運用期間は20年と長く、仕組みがシンプルで使いやすい制度になっています。