資産運用商品やサービスを見極める3つのポイント

2021年11月より金融サービス仲介業制度が導入されることによって、銀行や証券、保険といった様々な金融商品をワンストップで提供するサービスが始まる予定です。

他にも、「最先端アルゴリズムを取り入れた資産運用サービス」とか「ゴールベースアプローチの資産運用サポート」など、新しい金融商品やサービスが相次いで発表されています。

 

どのような分野であっても新商品や新サービスによって利便性が向上したり、質の高い機能が利用できることは歓迎すべきことです。

しかし、金融商品については一般の方がその機能性やサービスの質を判断することが難しく、現実には多くの専門家が批判しているにもかかわらず、人気が出てよく売れてしまう商品・サービスが多くあります。

 

そこで今回は、資産運用商品やサービスを見極める3つのポイントについて整理したいと思います。

 

1.コスト

どのような商品・サービスも無償で提供されるわけではありません。

「相談は無料です」と謳っていてもボランティア活動でない限り、どこかでコストを負担することになります。その商品・サービスを利用する際に直接・間接に負担する手数料の具体的な金額はいくらか確認することが大切です。そして、その手数料が他の商品・サービスと比べて高いのか安いのかも知る必要があるでしょう。

一部に手数料などを開示していない金融商品もありますが、そのような商品は即刻選択肢から外した方が良いかもしれません。

そして、コストの大小にはそれに見合うサービスや機能があるかという視点も大切です。

 

2.リスクの所在と大きさ

資産運用には必ずリスクが伴います。

どのような局面でどれだけの損失が発生する可能性があるのか、金融危機が発生した場合にどの程度の損失が発生するのか、事前に把握しておく必要があります。

仮に、大きな評価損失が発生しても回復する可能性があるのか、回復するとした場合どのくらいの時間を要するのかも重要です。

金融機関やサービス提供者はメリットを強調してアピールしますし、利用者も資産運用から得られるリターンにばかり目がいってしまう人が多いように思います。

期待できるリターンよりもリスクに注目し最悪の事態を想定しておくことが安心につながります。

 

3.流動性

いつでも売却して出金できるか。解約するのに制約がある場合は、その条件や手数料も把握しておく必要があります。

コロナウィルス問題により実感した人も多いと思いますが、経済や金融市場だけでなく個人のライフプランにおいても想像していなかった事態が発生し何かをキッカケに人生設計や資金計画が激変する可能性があります。

資産運用においても流動性確保の大切さを再確認しておくべきだと感じます。

 

以上の3つのポイントを理解して資産運用商品やサービスを選ぶと、コストが安くてシンプルな商品・サービスに行きつくと思います。

 

私は15年以上金融業界の中で様々な商品やサービスを見てきましたが、「金融商品やサービスの機能に期待しすぎないこと」も重要ではないかと感じています。

新しい商品やサービスが売り出されるときにはメリットや魅力が誇張されて宣伝されますし、大きな期待が集まります。しかし、何年か経過して振り返ってみると期待外れに終わってしまったり、金融機関などの都合でサービス提供が継続できなくなってしまうこともよくありました。

 

資産運用には普遍的な原理原則があります。

魅力的に聞こえる新しいサービスに飛びつくよりも、今回紹介した3つのポイントを意識してコストを抑えたシンプルな商品・サービスを選択した方が資産運用で成功する確率は高くなります。

人生100年時代に欠かせない考え方「WPP」

最近、年金やライフプランの専門家の間で「WPP」という言葉が使われています。

これは人生100年と言われるこれからの時代に欠かせない考え方であり、私の資産管理についてのアドバイス方針とも一致するため、今回はこの「WPP」について紹介します。

 

WPPとは、「働けるうちはできるだけ長く働いて(Work longer)、私的年金(Private pensions)で中継ぎをし、最後は公的年金(Public pensions)で締める。」という考え方の頭文字をとっています。

日本年金学会幹事でもある谷内陽一さんが2018年の日本年金学会で発表したところ、同じような考えを持つ専門家が使い始めたそうです。

 

谷内さんによると、「かつて個人年金や企業年金などの私的年金は公的年金に『上乗せ』して、終身で死ぬまで受け取れる『先発完投』型が理想とされてきましたが、企業年金の終身タイプは普及していないし、個人年金も低金利が続いて商品性を維持できなくなっています。

そこで発想を転換し、個人の備えを5~10年の『中継ぎ』型と割り切れば自助努力の範囲が『見える化』され、『いくら用意すればいいか分からない』という不安は和らぐ」と説明しています。

長生きに備えて貯蓄を増やすのではなく、公的年金の繰り下げを活用するということです。

 

「年金繰り下げ」により公的年金の受取時期を遅らせるためには、その間の生活費を賄う資金が必要です。

そこで、企業年金や退職金、それまで貯めてきた貯蓄や運用資産を取り崩してキャッシュフローを補います。そして、最後は繰り下げにより増額した公的年金を終身で受け取ることで長生きリスクに備えます。

 

金融関係者は金融商品や金融サービスを利用することで長生きリスクに備えることを提案します。

資産寿命を延ばすためにも資産運用が必要だという主張です。

しかし、私はWPPの実践の方が人生100年時代に有効だと考えています。

資産運用の結果はどうしても不確実であり、しかも高齢期は判断能力の低下という問題への対応も必要になります。

 

資産管理について家族やアドバイザーのサポートが受けられれば問題ないかもしれませんが、日本ではアドバイザーを利用するという習慣も一般化していませんし、そもそもアドバイザーが足りていません。

 

寿命が分からない以上、老後に必要な資金額を事前に知ることはできません。

貯蓄を増やしたり投資で資産を増やすことも大切ですが、公的制度を上手に活用する方が高齢期の財産管理のリスクを低減しながら、確実に長生きに備えることができます。

 

 

「海外資産」は必要だが、「外貨建て資産」を保有する必要はない

金融機関の営業担当者だけでなく独立系のファイナンシャル・プランナーやアドバイザーも資産分散の必要性を訴えて外貨建て商品の利用をお勧めしているようです。具体的には、外貨預金や外国債券、外貨建て投資信託、外貨建て保険などです。

しかし、多くの人にとって外貨建て資産を保有する必要性はありません。金融機関の担当者やファイナンシャル・プランナーと話をしていても、「海外資産」と「外貨建て資産」の違いを理解できていないと感じることがよくあります。

人口減少社会の到来や高齢化の進行、財政状況の悪化やグローバルな経済取引の進展を背景に個人が国内資産だけでなく海外資産を保有する必要性が高まっていることは誰もが認めるところです。保有する資産の価値を守っていくためにも、国内資産に偏ることなく資産の一部で海外資産への投資が必要不可欠です。

金融機関やファイナンシャル・プランナーもこのような理由から海外資産を保有する必要性を訴え、様々な外貨建て商品での運用を提案してきます。外貨建て商品は円建ての商品に比べて利回りが高く見えるため金融に詳しくない一般の利用者にアピールしやすく、商品に含まれる手数料も大きいため、収益拡大にもつながります。そのためにも熱心に営業活動を展開しています。

しかし、利用者の立場からすれば、できるだけ低コストかつシンプルな方法で資産の分散を出来た方が良いはずです。そのためには、コストの高く複雑な外貨建ての商品を利用するよりも、円建ての商品を利用した方が効率的に本来の目的を果たすことができます

例えば、円建てで海外資産に投資するインデックス・ファンドを使えば、為替手数料の負担もほぼありませんし、運用コストもかなり低くなります。将来的に円安が進んだ場合には、円建ての運用であっても投資対象資産の円換算した評価額は上昇するため、外貨建ての商品を利用しなくても同じ運用成果が得られます。

海外に移住する予定があるような一部の人を除けば外貨で資金を使うケースはほとんどないわけですから、それだったら円建ての運用商品を使って国際分散投資に取り組む方が効率的です。

唯一、私が外貨建ての運用商品の中でもお勧めすることがあるのは、海外ETF(上場投資信託)への投資です。0.01%単位まで徹底的に運用コストの削減にこだわる場合や米国市場の多様な商品ラインナップから商品を選びたいと考える場合に海外ETFは有効です。売買手続きや資産管理の負担が少し大きくなることを考えると、多くの一般の生活者にとっては海外ETFも必要ないと考えます。

資産運用において海外資産への投資は必要ですが、外貨建てで投資する必要はないということです。どの通貨で資産を保有するか(=決済通貨が何か)より、投資対象資産を分散することが圧倒的に重要です。

米国で生活する人は米ドル建てで国際分散投資に取り組むことになるし、日本で生活している人は円建てで国際分散投資に取り組めばよいのです。これは保有資産の多寡にかかわらず同様です。どんなに多額の資産を持っていても、保有資産の投資先が分散できていれば全てを円建ての金融商品で持っていても問題ありません

 

アクティブ・ファンドの選び方「5つのP」

アクティブ・ファンドを評価する際の項目として「5つのP」があります。

この「5つのP」は年金基金や金融機関などのプロの機関投資家が運用会社を選定するときにも使われますが、

個人が投資信託を選ぶときに大事なポイントになります。

今回は「5つのP」について、その内容と優先順位について確認していきます。

 

ファイナンシャル・ジャーナリストの竹川美奈子さんが様々なメディアや書籍を通じて、

アクティブ・ファンドを選択する際に確認すべきポイントとして「5つのP」について

以下のように説明しています。

1.Philosophy(フィロソフィー) … 運用理念や投資哲学に共感できるか。

2.Process(プロセス) … 投資対象の選定過程が明確に示されているか。

3.Portfolio(ポートフォリオ)…Philosophy(フィロソフィー),Process(プロセス)に沿った中身になっているか。

4.People(ピープル)…運用体制や運用担当者の経歴は開示されているか。

5.Performance(パフォーマンス)…過去の運用実績(リスク・リターン、運用効率など)。

 

5つのポイントがどれも大切ですし総合的に判断することが重要ですが、

私自身が特に重要だと考えているのは、「Process(プロセス)」と「Portfolio(ポートフォリオ)」です。

日本の投資信託には、プロセスを明確にしていないファンドやポートフォリオが運用方針に合致していないファンドが多くあります。

運用理念など魅力的なことを書いていても、中身が伴っていないということです。

そして、運用担当者の名前や運用体制が明確に開示されているファンドも実はそれほど多くありません。

自分の大切な資産を預けて運用する以上、いかに多くの情報を開示して分かりやすく説明しているか、

その取り組み姿勢が私は最も重要だと考えます。

 

反対に、5つのPのなかで優先順位が低いのが「Performance(パフォーマンス)」です。

多くの個人投資家やアドバイザーが過去数年の運用成績を最優先に考えるようですが、

短期間でみた過去の運用成績というのはその期間の経済環境に依存する部分が大きく、

それをもって長期的な観点での優位性を測ることはできません。

特に日本には15年や20年といった長期の運用実績をもつファンドがそれほど多くありません。

海外で運用されてきた実績の高いファンドの運用戦略を国内に持ち込んで、

さも優れた実績を残しているかのようにアピールして販売されるファンドをよく見かけますが、

ほぼ確実にその後期待されたような結果は残せていません。

したがって、パフォーマンスを第一の評価基準にするのではなく、

残りの4つのP(プロセス、ポートフォリオ、フィロソフィー、ピープル)に関する

情報開示の量・質・姿勢を重視することが重要です。

 

一方で、「5つのP」について調べる時間や労力をかけられない場合は

無理にアクティブ・ファンドに投資する必要はありません。

先月のブログ(「資産運用はインデックス・ファンドを中心に考える」)でもお伝えした通り、

インデックス・ファンドのみの運用でも十分なリターンが期待できますし、

資産運用の目的は果たせると考えます。

 

「5つのP」のチェック方法については、竹川美奈子さんの以下の記事が非常に参考になります。

興味あれば是非ご覧ください。

https://media.monex.co.jp/articles/-/16861

 

資産運用はインデックス・ファンドを中心に考える

投資信託にも様々なタイプの商品がありますが、大きく分けるとインデックス・ファンドとアクティブ・ファンドの2種類に分けられます。

インデックス・ファンドとは、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)など特定の指数をベンチマークとしてこれらの指数と同じ値動きになるように運用されるファンドです。

インデックス・ファンドの主な特徴は手軽に分散投資が可能なことと運用コストが安いことです。

一方、アクティブ・ファンドとは、独自の銘柄選択や資産配分によりベンチマークを上回る運用成果を目指して運用されます。

アクティブ・ファンドの主な特徴はベンチマークを上回るリターンを得られる可能性があることと運用コストが高めなことです。

 

どちらのタイプもメリット・デメリットは存在しますが、私は資産運用の中心となる部分はインデックス・ファンドの利用を勧めています。

「初心者はインデックス・ファンドで運用した方がよい」といった記事も目にしますが、初心者だけでなく中級者も上級者もインデックス・ファンドを中心に運用する方が合理的です。

 

なぜならば、優れたアクティブ・ファンドを見極めるためには知識だけでなく時間や労力が必要にもかかわらず、多くのアクティブ・ファンドがインデックス・ファンドのパフォーマンスを上回れていないからです。

 

実際にパフォーマンスについてデータで確認してみましょう。

毎年S&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが発行している、アクティブ・ファンドとインデックスを比較するレポート(SPIVA®日本スコアカード)によると、過去10年でインデックス(ベンチマーク)をアンダーパフォームしたアクティブ・ファンドの割合は以下のようになっています。

 

日本の大型株ファンド:77.29%

日本の中小型株ファンド:47.62%

全ての日本株ファンド:66.80%

米国株ファンド:78.26%

グローバル株式ファンド:92.70%

国際株式ファンド:94.23%

新興国株式ファンド:94.204%

 

日本の中小型株ファンドを除くカテゴリーで、半分以上のアクティブ・ファンドがインデックスを下回っていることがわかります。

特に、海外を投資対象としたファンドについては、8割から9割のファンドがインデックスを上回れていない結果となっています。

(ただし、このレポートはインデックスとの比較であり、インデックス・ファンドとの比較ではありませんのでその点には注意が必要です)

 

もちろんアクティブ・ファンドの中には、インデックスと比べて圧倒的に高いパフォーマンスをあげているファンドがあることも事実ですが、アクティブ・ファンド全体の平均リターンは当然ながらコスト差によりインデックス・ファンドに劣後してしまいます。

 

したがって、多くの個人投資家にとってはインデックス・ファンドを中心に資産運用に取り組む方が合理的ではないでしょうか。

 

ただし、興味や関心がある投資家は一部の資金でアクティブ・ファンドを利用し資産全体の運用成績の改善を狙うことは有効です。

他にも、リターン以外の部分に着目してアクティブ・ファンドへ投資することをお勧めすることもあります。たとえば、投資知識を増やす機会にすることも可能です。

環境問題など社会課題の解決に繋がる会社に投資するファンドを利用することで自分の意思を投資先の選択に反映することもできます。

 

アクティブ・ファンドとインデックスを比較するレポート(SPIVA®日本スコアカード)についてはこちらで確認できます。興味あれば是非直接ご確認ください。

https://www.spglobal.com/spdji/en/content/article/spiva-japan-jp/

 

 

資産運用においてコントロールできる事とできない事

 

金融市場は引き続き活況で新たに投資に関心を持つ人も増えているようです。

投資初心者は「このファンドが最近の売れ筋らしい!」、「急成長中のこの会社の株を買いたい!」、「これまで〇%の利益をあげた実績がある」と華やかなリターンにばかり目が行きがちです。

「いつ、何に投資したら良いのか」だけを考えている投資家も多くいます。

しかし、短期的な相場の先行きは専門家でも予想できないことが多く、短い期間でどれだけのリターンが得られるかはほとんど「運」次第です。

将来のリターンは不確実なのが現実です。

思惑どおりに相場が動いて儲かる時もあれば、予想外の動きで大きな損失を被ることもあるでしょう。

まさにリターンはコントロール不可能なのです。

一方で、リスクはコントロールが可能です。

投資対象を分散することやリスク特性の異なる資産を組み合わせることで全体の価格変動を抑えられます。

投資するタイミングを分散することで大きな失敗も避けられます。

さらに重要なのは、コストのコントロールです。

コストは事前に確定していて、しかも投資家が自分自身の行動によってコストの安い取引方法や商品を選択することができます。

コストを削減できれば確実に得られるリターンは増えます。

他にコントロールできるのは税金です。

NISAや確定拠出年金など節税につながる制度も増えています。合理的に活用することで、追加のリスクを負担することなく確実に手元に残るお金を増やすことができます。

せっかく非課税で運用できる制度があるにもかかわらず活用せず、課税口座で運用している人も多くいます。

非課税枠は個人単位のため、家族名義の非課税枠も有効に活用することもお勧めしています。

資産運用において、コントロール可能な要素「リスク」「コスト」「税金」に意識を集中することが重要です。

「リスク」「コスト」「税金」をきちんとコントロールできれば結果としてリターンが確実に得られると考えています。

多くの人は「リターン」をコントロールしようとして失敗しています。

根拠の薄弱な感覚的な相場予想に基づいて早すぎる利益確定をしてしまったり、積立投資を止めてしまったり、上昇局面で乗り遅れまいと慌てて追加投資をして高値掴みをしているケースも多くあります。

リターンはコントロールできないと割り切って、コントロールできることに集中することで合理的効率的な資産運用が可能になります。

 

長生きリスクに備える「年金繰り下げ」の注意点とは

人生100年時代といわれています。

医療技術もさらに進歩していくことが予想され、想定より長生きした場合に備えておく必要性が高まっています。

どんなにお金があっても資産を取り崩していく生活には不安を感じる人も多いでしょう。

そういった長生きリスクに備えるには公的年金の繰り下げが有効です。

運用してお金を増やしておくことも大事ですが、それ以上に確実な対策となるのは公的年金の活用だと考えています。

そこで今回は年金繰り下げの考え方を整理していきます。

 

「老後2000万円問題」でも明らかになったように年金制度を正しく理解していない人が非常に多いようです。

公的年金は老後の生活資金のベースです。

確かに人によってはそれだけでは不十分だと感じると思いますが、

メディアが報じるほど日本の年金制度は悪くありません。

制度が破綻することは有り得ないですし、そして、何よりも自身の選択次第で金額を増やしたり、

個人のライフプランに応じてカスタマイズ可能な仕組みになっています。

 

「繰り下げ受給」とは、年金をもらい始める時期を遅らせる代わりに年金額が増える仕組みですが、

選択できる年齢が75歳まで延長される予定です。

受け取り開始を1ヵ月遅らせると、年金額が0.7%増えます。

仮に75歳まで遅らせると年金額は原則である65歳開始に比べて84%増えます。

税金や社会保険料への影響も考慮する必要はありますが、

1.84倍に増えた年金を死ぬまで受け取れるというのは非常に大きなメリットです。

 

ただし、繰り下げ受給には注意点もあります。

 

1つ目は、「損益分岐」の時期です。

受給を遅らせている間に受け取らなかった分を取り戻すには、

増えた年金を何年もらい続ければいいのかを計算すると11年11カ月。

70歳からもらい始めるなら81歳11カ月、75歳からなら86歳11カ月まで生きると元が取れます。

しかし、年金額が増えると税金や社会保険料、医療費の自己負担も増えてしまうため、

実質的には元が取れるまでに15年くらいかかるケースもあります。

 

2つ目は、「加給年金」です。

これは一定の条件を満たす年下の配偶者がいる場合に上乗せされる約39万円の年金です。

加給年金は厚生年金を繰り下げると消えてしまいもらえません。

対策としては、繰り下げる年金を基礎年金部分だけにすれば、加給年金を予定通り受け取ることが可能です。

 

3つ目は、「在職老齢年金」との関係です。

在職老齢年金とは年金をもらいながら働くと就労形態や収入額によっては年金が削減される制度です。

この対象者は繰り下げの効果が薄れてしまいます。

 

4つ目は、「遺族年金」との関係です。

配偶者の死亡後に受け取る遺族年金は65歳時点の年金額を基準に計算するため繰下げで増えた分は反映されません。

また、配偶者の年金額が大きい場合には遺族年金の受給権発生によって自身の繰り下げが無駄になってしまう可能性もあります。

 

5つ目は、受給開始年齢は後から決められることです。

事前に何歳から受け取り開始するか決めないといけないと勘違いしている人もいますが、

その必要はありません。

65歳を過ぎても手続きをせずにいて、例えば68歳になった時点で年金を受け取ろうと考えた場合、

3年分(25.2%)増額された年金額をそれ以降ずっともらうか、

増額はされないけれども3年分を遡って一括でもらうか選択することができます。

 

以上のように年金繰り下げについては注意点も多くありますが、

終身でずっと受け取れる収入源を確保しておくことは安心に繋がります。

十分な不動産収入や配当収入を確保できればそれに越したことはありませんが、

投資にはリスクも伴いますし、資産管理の負担もゼロではありません。

公的年金を中心とする社会保障制度を上手く活用する方が長生きリスクへの備えとしては安心だと考えます。

 

株価高騰時における資産運用の注意点

 

日経平均株価も約30年ぶりに3万円台に回復し、引き続き世界の株式市場が堅調に推移しています。

そこで、今回は株価高騰時における資産運用の注意点を整理しておきます。

「コロナ禍に苦しむ実体経済と株式市場の現状には乖離がある。今の株価高騰はバブルだ、近いうちにはじけるのではないか」と考えて一旦利益確定のために売却しておこうと考えてしまうことはよくあります。

他にも「一旦売却しておいて、安くなったところで買い戻そう」と考える人もいるかもしれませんが、それもお勧めできません。

さらなる価格上昇により買い戻すタイミングを失い、何もせずに運用を継続した場合よりも少ないリターンしか得られないことがよくあります。

このように相場予想に基づく売買は上手くいかないことが多く、エコノミストなど経済予想の専門家ですら短期的な市場予想は当たらないのですから、個人の長期的な資産運用においては相場予想によって投資方針を変える必要はないと考えます。

売却するかどうかは個人資産全体のバランスとキャッシュフロー(CF)計画次第です。

当初より長期的な資産成長に期待して運用に取り組み、CF計画が変わっていないのであれば、どんなに株価が上昇しても淡々と運用を続けることをお勧めします。

もし仮にバブルであったとしても、そういった議論が始まってからさらに長く上昇を続けることが多いという歴史的事実もあります。

株価が一本調子で上がり続けることはありませんし、いつかは必ず調整(=下落)しますが、

それは更に大きく上昇した後かもしれません。

したがって、早すぎる利益確定によりキャッシュポジションを大きくしすぎない(預金資産の比率を高め過ぎない)で、マーケットに居続けることが重要です。

売却しなくてはいけない状況があるとすると、今後5年以内に必要となる資金まで投資してしまっている場合くらいです。

時間をかければ回復する可能性が高く本当は売らない方が良いのにも関わらず、資金が必要になり売却しなくてはいけなくなる事態を避けるためです。

したがって、株価高騰時にやっておくべきことは、今後必要となる流動性資金が確保できているか、リスクを取り過ぎていないかを再度確認しておくことくらいでしょう。

ライフプランを整理して個人の将来キャッシュフローをしっかり把握することで投資可能な資金を明確にしておきます。

そして、金融危機などにより株価が大暴落した場合に発生する最大損失額を把握して、それでも経済的にも精神的にも落ち着いていられるかがリスクを取り過ぎていないかのポイントです。

流動性資金と運用期間が確保できていれば、どんなに株価が高騰しても運用方針は変える必要ありません。バブルは結構長く続くかもしれませんし、相場の先行きは予想できないと割り切って、無理し過ぎず淡々と資産運用を続けていきましょう。

 

2021年の投資に対する考え方

2020年はこれまでにない異例の1年となりました。

日経平均株価の終値も1989年以来の高値となり米国の株式市場も歴史的な急騰が続き、

連日史上最高値を更新していました。

 

弊社のお客様は3月以降の下落局面で追加投資を実行できた方が多く、

ほぼ全てのお客様が運用資産の評価額を増やすことができた1年でした。

短期的な価格変動を受け入れ、将来的に成長していく可能性の高い資産へ投資しているのですから、

お金が増えるのはある意味当然の結果とも言えます。

 

2021年も株式市場を取り巻く環境は悪くなさそうです。

主要国の金融緩和政策は維持され、財政出動による経済対策も適宜発動される見通しです。

新型コロナに収束の目途は立っていませんが、ワクチン普及の実現性が増していることが支えとなり、

経済活動の正常化は一進一退を繰り返しながら時間をかけて進むと想定されます。

 

しかしながら、いつもお伝えしているように、

相場の先行きを予想して運用方針を大きく変える必要はありません。

株価上昇による運用評価額の増加にも浮かれず、

心を落ち着けて当初の資産運用方針に沿って淡々と投資を続けていくことが重要です。

 

評価額の上昇により、一旦売却して利益を確保しておきたいとの衝動もよく理解できますが、

現状の市場環境でキャッシュポジション(個人資産全体に占める現預金の比率)を大きくし過ぎることはお勧めできません。

世界的な株価上昇は、現金や通貨の価値が下落していることも要因の1つと考えられるからです。

ビットコインなど暗号通貨の上昇も同様の理由で説明できます。

 

金融緩和政策の継続、財政出動による経済対策が進められるうちは

バブル崩壊や大幅な下落は考えにくいと思います。

 

新年を迎えたこのタイミングでやっておくべきことは、個人資産全体の資金計画やリスク許容度の確認でしょう。

具体的には、以下の3つがポイントになります。

 

1.ライフプランやキャッシュフロー計画に沿って、今後数年間に必要となる資金が確保できているか。

2.現在の投資総額から想定される最大損失額はいくらか、精神的に許容できる範囲内か。

3.株式市場が下落した時には追加投資できる余力が残っているか。

 

市場環境が悪化し株式市場の下落が続くと、投資計画の修正がしづらくなります。

株式市場が高値を更新するような時ほど冷静にリスクを取り過ぎていないか確認し、

取り過ぎているのであれば、運用資産を一部売却しておくなどの対応をしておく必要があります。

 

先行き不透明な時代において、ライフプランやキャッシュフロー計画を定期的に見直しながら資産運用に取り組む重要性が高まっています。

 

 

投資信託売却の考え方

今月に入り日経平均株価は約30年ぶりの高値を更新しました。

米国株式市場も史上最高値圏にあり、投資信託を利用して資産運用に取り組んでいる

投資家の多くは保有資産の評価額が上昇し儲かっている状況にあります。

株価上昇を受けて保有資産の評価額が上昇してくると、

「投資信託を売りたい」といった相談を受けることがあります。

そこで、今回は投資信託の売却に関する考え方を整理しておきます。

 

結論から言うと、

相場状況での売買判断はほとんど必要ないと考えています。

もちろん、運用方針にもよりますし、投資対象にもよります。

個別株やテーマ型の投信で運用している場合は

どこかで売却して利益を確保しておいた方が良いでしょう。

 

一方で、当初より長期的な資産成長を期待して投資しているファンドについては、

個人の運用方針が変わっていないのであれば、相場状況による売買判断は不要です。

売却するとしても微調整くらいに留めておくべきだと考えます。

 

確かに、どんなに評価額が上昇していても売却しない限り利益は確保できません。

一旦、売却して利益を確保しておきたい衝動に駆られることもよく分かります。

 

金融機関の営業担当者であれば、

一旦売却して利益を確保しておくことを提案するでしょう。

しかし、それは次にまた別のモノに投資する際に手数料を獲得できるチャンスがあるからです。

長期で運用できる売却資金を預金に置いておいてもリターンは期待できませんので、

機会損失が発生します。

必ず次の投資タイミングをうかがう必要がでてきますが、

結果的に売却した時期より高くなってから再度投資するようなケースも実際には多いのが現実です。

 

では、売却についてどのように考えておくのが良いのでしょうか。

積立投資により運用資産を積み上げていくのと同様に、

時間分散をしながら計画的に売却していくことを私はお勧めしています。

 

具体的には、家計キャッシュフロー(CF)の推移や退職時期などのライフプランを整理して、

いつから運用資産を取り崩していくのか考えます。

資金が必要な時期から逆算して準備していくということです。

 

今年の3月のように相場が急落したタイミングで追加投資のペースを引き上げたり、

待機していた資金から追加投資することは有効です。

それと同じように、明らかにバブルが膨らんでいて上がり過ぎている状況であれば、

運用資産を一部売却して手元資金を多めに確保しておくことをお勧めすることはありますが、

今はまだその状況にないと考えます。

 

手元資金が少なくなっているのであれば、

一部売却して利益を確保しておくのが良いかもしれませんが、

市場動向は予想できないと考えておくべきです。

 

積立投資により継続的に運用資産を積み上げている場合は、

どんなに高くなっても運用期間(資金が必要になるまでの期間)が

10年程度確保できているのであれば、積立投資を淡々と続けることで問題ありません。

 

相場が急落した3月以降に積立ペースを引き上げてきた場合には、

積立金額を減額するか一旦停止しても良いかもしれませんが、

これも全ては、家計のキャッシュフロー(CF)と手元流動性資金をどの程度

確保しているかによって判断は変わってきます。

 

私がお勧めしているような長期的に成長が期待できる投資信託で運用している場合は

短期的に価格が上昇しても運用方針を変えて売却する必要はありません。

何か行動するとしても、手元資金を少し多めに確保するとか

積立投資金額を減額しておく程度がよいでしょう。